玉突き人事とは?不満!拒否できる?選ばれる人の特徴や辞める方法

玉突き人事とは?不満!拒否できる?選ばれる人の特徴や辞める方法

著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣 弁護士

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属
不当解雇や残業代、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。
【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法

玉突き人事により望まぬ異動をさせられてしまう事例が少なくありません

望まぬ異動となるとモチベーションは下がってしまいますし、キャリアにも支障が生じてしまいます。

ホウペン

この記事の要点

・玉突き人事とは、ある社員の異動により、空いたポジションの穴を埋めるため別の社員も次々に移動となることをいいます。

・玉突き人事については、拒否できる場合もありますが、常に拒否できるわけではありません。辞めることを考えている場合には手順を踏んで慎重に進めましょう。

この記事を読めば、玉突き人事の対象とされてしまった場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。

目次

1章 玉突き人事とは?意味

1章 玉突き人事とは?意味

玉突き人事とは、ある社員の異動によって空いたポジションを埋めるために、別の社員も連鎖的に異動する人事のことをいいます

「玉突き」という言葉は、ビリヤードなどで1つの球が別の球にぶつかり、さらに次の球が動いていく様子から使われています。人事の場面でも、1人の異動をきっかけに、別の社員の配置も次々と変わっていくことがあるため、「玉突き人事」と呼ばれることがあります。

例えば、営業部の社員が管理部へ異動し、その営業部の穴を埋めるために別の部署の社員が営業部へ異動するというケースです。その結果、さらに別の部署で人員が足りなくなり、追加の異動が行われることもあります。

玉突き人事は、法律で決められた正式な言葉ではありません。法律上は、会社が労働者の担当業務や勤務場所を変更する「配置転換」や「配転命令」の一場面として整理されることが多いです

会社では、退職、休職、昇進、組織変更、人員不足などをきっかけに、部署ごとの人数や役割を調整することがあります。その調整の中で、本人が希望していない異動が発生することもあります。

もっとも、玉突き人事という言葉だけでは、その異動が正当かどうかまでは判断できません。問題になるのは、なぜ異動が必要なのか、どのような業務に変わるのか、労働者にどの程度の影響があるのかという点です。

そのため、玉突き人事を命じられたときは、まず「人員調整のために連鎖的に行われる異動である」と理解しておくとよいでしょう。そのうえで、不満がある場合や納得できない場合には、後の章で説明するように、異動の理由や条件を確認していくことになります。

2章 玉突き人事のメリットとデメリット

玉突き人事には、前向きに考えられる面と、労働者にとって負担になりやすい面があります

人員調整の一環でも、本人の希望と合わなければ仕事への意欲や将来設計に影響するためです。

例えば、玉突き人事のメリットとデメリットを整理すると以下のとおりです。

メリット1:出世の機会
メリット2:幅広い業務の体験
デメリット1:モチベーションの低下
デメリット2:キャリアプランのミスマッチ

2章 玉突き人事のメリットとデメリット

それでは、玉突き人事のメリットとデメリットについて順番に見ていきましょう。

2-1 メリット1:出世の機会

玉突き人事は、見方によっては出世の機会になることがあります

なぜなら、会社が欠員を埋めるために人を動かす場面では、これまでとは違う役割や責任を任されることがあるためです。

本人の希望とは違う異動であっても、新しい部署で成果を出せば、評価につながる可能性があります。

例えば、前任者の異動により、急きょチームの中心的な業務を任されるケースです。このような場合、最初は負担に感じるかもしれませんが、業務を覚え、周囲と調整しながら成果を出すことで、社内での評価が上がることもあります。

ただし、出世の機会になるかどうかは、異動先の業務内容や会社の評価制度にもよります。玉突き人事だから必ず有利になるわけではありませんが、新しい役割を任されることで、評価を受けるきっかけになることがあります。

2-2 メリット2:幅広い業務の体験

玉突き人事により、幅広い業務を体験できることもあります

同じ部署で長く働いていると、どうしても身につく知識や経験が偏りやすくなります。別の部署へ異動することで、これまで知らなかった仕事の流れや他部署の考え方を学べることがあります。

例えば、営業部で働いていた人が管理部門へ異動するケースでは、顧客対応だけでなく、契約管理、社内調整、数字の管理などに関わることがあります。反対に、管理部門にいた人が現場に近い部署へ異動することで、現場でどのような問題が起きているのかを知るきっかけになることもあります。

このように、玉突き人事は、これまでの業務範囲を広げる機会になる場合があります。将来、管理職を目指す場合や、社内で幅広く働きたい場合には、複数の部署を経験していることが強みになることもあります

2-3 デメリット1:モチベーションの低下

玉突き人事の大きなデメリットは、仕事へのモチベーションが下がりやすいことです

本人が希望していない異動である場合、「なぜ自分が選ばれたのか」「これまでの努力は評価されていなかったのか」と感じてしまうことがあります。特に、十分な説明がないまま異動を命じられると、不安や不満が大きくなりやすいです。

例えば、今の部署で成果を出そうとしていたところ、突然別の部署への異動を伝えられるケースがあります。このような場合、これまで積み上げてきた仕事が途中で止まってしまい、気持ちの整理がつかないこともあるでしょう。

また、異動先の業務に興味を持てない場合や、職場環境になじめない場合には、毎日の仕事がつらく感じられることがあります。玉突き人事は会社側の都合で行われることが多いため、労働者の納得感が不足すると、モチベーションの低下につながりやすいのです。

2-4 デメリット2:キャリアプランのミスマッチ

玉突き人事では、自分が考えていたキャリアプランと合わなくなることがあります

労働者には、それぞれ身につけたいスキルや目指したい働き方があります。しかし、玉突き人事は欠員補充や人員調整のために行われることが多いため、本人の希望するキャリアと一致するとは限りません

例えば、専門性を高めたいと考えていた人が、まったく別の分野の部署へ異動するケースです。この場合、新しい経験を得られる一方で、これまで伸ばしてきた専門性を活かしにくくなることがあります。

また、将来の転職を見据えて特定の業務経験を積みたいと考えていた人にとっては、予定していた経験が積みにくくなることもあります。特に、異動先の仕事が短期的な穴埋めに近い場合には、「自分の将来につながるのか」と不安に感じることもあるでしょう。

そのため、玉突き人事には、経験の幅が広がるという面がある一方で、自分の希望するキャリアから離れてしまうリスクもあります。異動を前向きに受け止められるかどうかは、異動先で得られる経験と、自分の将来の方向性がどの程度合っているかによって変わります。

3章 玉突き人事に選ばれる人は優秀?無能?特徴4つ

玉突き人事に選ばれたからといって、優秀とも無能とも一概にはいえません

会社は、能力だけでなく、人員配置のしやすさや部署内のバランスも見て異動対象者を決めることがあるためです。

例えば、玉突き人事に選ばれる人の特徴としては、以下の4つがあります。

特徴1:業務を一通り任せられる人
特徴2:周囲と調整しながら働ける人
特徴3:異動を受け入れそうだと思われている人
特徴4:今の部署で代わりがいると判断されている人

3章 玉突き人事に選ばれる人は優秀?無能?特徴4つ

それでは、玉突き人事に選ばれる人の特徴について順番に見ていきましょう。

3-1 特徴1:業務を一通り任せられる人

玉突き人事では、業務を一通り任せられる人が選ばれることがあります

欠員を埋めるための異動では、会社としては、できるだけ早く新しい部署で働ける人を動かしたいと考えます。そのため、基本的な業務能力があり、指示を受ければ一定の仕事を進められる人が対象になりやすいのです

例えば、専門的な経験が深いわけではなくても、社内の仕事の流れを理解していて、報告、連絡、相談をしながら業務を進められる人が異動対象になるケースがあります。会社から見ると、「この人なら新しい部署でも何とか対応できるだろう」と考えやすいためです。

そのため、玉突き人事に選ばれたからといって、「自分は都合よく使われているだけだ」とすぐに考える必要はありません。一定の信頼があるからこそ、穴埋めの人材として選ばれることもあります。

3-2 特徴2:周囲と調整しながら働ける人

玉突き人事では、周囲と調整しながら働ける人も選ばれやすいです

異動先では、すぐに人間関係を作り直し、新しい上司や同僚と連携して仕事を進める必要があります。そのため、会社は、特定の業務能力だけでなく、周囲と大きなトラブルなく働けるかどうかも見ていることがあります。

例えば、複数の部署とやり取りをしながら仕事を進めてきた人や、急な依頼にも落ち着いて対応してきた人が、別の部署へ異動するケースがあります。このような人は、異動先でも周囲と関係を作りやすいと考えられやすいです。

玉突き人事は、会社側の人員調整の都合で行われることが多いものです。その中で、周囲と協力しながら働ける人は、異動後の混乱を抑えやすい人材として見られることがあります。

3-3 特徴3:異動を受け入れそうだと思われている人

玉突き人事では、会社から「異動を受け入れてくれそうだ」と思われている人が選ばれることもあります

会社は、人員を動かすときに、できるだけ大きな反発が起きない形で進めようとすることがあります。そのため、普段から会社の指示に従うことが多い人や、強く不満を言わない人が対象になりやすい場合があります。

例えば、これまで急な業務変更にも対応してきた人や、上司からの依頼を断らずに受けてきた人が、玉突き人事の候補になるケースがあります。本人としてはまじめに働いてきただけでも、会社からは「この人なら受け入れてくれるだろう」と見られていることがあります。

もっとも、異動を受け入れそうだと思われていることと、必ず異動に従わなければならないことは別です。不満や不安がある場合には、感情的に反発するのではなく、理由や条件を確認することが必要になります。

3-4 特徴4:今の部署で代わりがいると判断されている人

玉突き人事では、今の部署で代わりがいると判断された人が選ばれることもあります

会社が異動を決めるときは、異動先だけでなく、異動元の部署が回るかどうかも考えます。異動させたい人がいても、その人が抜けることで今の部署が大きく混乱する場合には、会社も動かしにくいからです。

例えば、同じ業務を担当できる社員が複数いる部署では、そのうちの1人が異動対象になるケースがあります。反対に、特定の社員しか担当できない業務が多い場合には、会社としても簡単には動かしにくいことがあります。

このように、玉突き人事に選ばれるかどうかは、本人の能力だけで決まるものではありません。今の部署の人員状況や、代わりに業務を担当できる人がいるかどうかも影響します。

そのため、玉突き人事に選ばれたとしても、「自分は評価されていない」と決めつける必要はありません。会社の都合や部署全体のバランスによって、異動対象になることもあるのです。

4章 玉突き人事を拒否できる4つのケース

玉突き人事は、必ず拒否できるわけではありませんが、会社の命令が無制限に認められるわけでもありません

異動の根拠や目的、労働者への負担によっては、配転命令が無効になる可能性があります。

例えば、玉突き人事を拒否できるケースとしては、以下の4つがあります。

ケース1:職種や勤務地が限定されている場合
ケース2:退職に追い込む目的や嫌がらせ目的の場合
ケース3:労働者に著しい負担を課すことになる場合
ケース4:雇用契約書や就業規則に異動の根拠がない場合

玉突き人事の4つのケース

4-1 ケース1:職種や勤務地が限定されている場合

職種や勤務地が限定されている場合には、玉突き人事を拒否できる可能性があります

雇用契約で「職種は経理に限る」「勤務地は横浜支店に限る」などと決められている場合、会社はその範囲を超える異動を一方的に命じることはできません。

例えば、経理職として採用され、雇用契約書にも経理業務に従事すると明記されている人が、突然営業職への異動を命じられるケースです。このような場合、職種限定の合意があるといえるかどうかが問題になります。

また、勤務地についても同じです。転勤なしの条件で採用された人や、勤務地を特定の事業所に限定する合意がある人については、遠方への異動を命じられても、当然に従わなければならないとは限りません

もっとも、雇用契約書に「業務上の都合により職種や勤務地を変更することがある」と書かれている場合には、限定の有無が争いになることがあります。職種や勤務地が限定されているかは、雇用契約書、労働条件通知書、求人票、採用時の説明などを総合的に見て判断することになります。

そのため、「自分はこの仕事で採用されたはずだ」「転勤なしと聞いていた」と感じる場合には、まず職種や勤務地の限定があるかを確認する必要があります。

4-2 ケース2:退職に追い込む目的や嫌がらせ目的の場合

退職に追い込む目的や嫌がらせ目的で玉突き人事が行われた場合には、拒否できる可能性があります

会社の異動命令は、業務上の必要性に基づいて行われるべきものです。そのため、表向きは「人員調整」や「欠員補充」と説明されていても、実際には労働者を辞めさせる目的で異動を命じている場合には、配転命令が権利の濫用とされることがあります

例えば、上司に意見を述べた後から急に遠方への異動を命じられるケースや、退職を断った直後に経験のない部署へ異動を命じられるケースがあります。このような場合、異動の必要性だけでなく、会社がどのような目的で異動を命じたのかが問題になります。

また、労働者に強い精神的負担を与えることを狙って、あえて合わない部署へ異動させるようなケースも考えられます。会社が「玉突き人事だから仕方ない」と説明していても、実際には嫌がらせに近い目的がある場合には、正当な異動とはいえない可能性があります。

ただし、労働者が「嫌がらせだ」と感じているだけでは、直ちに違法と判断されるわけではありません。会社の発言、異動に至る経緯、異動先の業務内容、他の社員との扱いの違いなどから、不当な目的があるといえるかを見ていくことになります。

そのため、退職に追い込む目的や嫌がらせ目的が疑われる場合には、異動を命じられるまでのやり取りや会社の説明をできるだけ残しておくことが必要になります。

退職に追い込む異動については、以下の記事で詳しく解説しています。

4-3 ケース3:労働者に著しい負担を課す場合

玉突き人事によって労働者に著しい負担が生じる場合には、拒否できる可能性があります

会社に異動を命じる権限がある場合でも、労働者に通常受け入れるべき程度を大きく超える不利益を与えることはできません。特に、家庭の事情、健康状態、介護や育児の状況などから、異動による負担が大きすぎる場合には、配転命令の有効性が問題になります

例えば、家族の介護をしている人が、十分な配慮なく遠方の勤務地へ異動を命じられるケースがあります。また、持病の治療のために通院が必要な人が、通院の継続が難しくなる場所へ異動を命じられるケースもあります。

このような場合、会社に業務上の必要性があっても、労働者側の事情をまったく考えずに異動を命じることは問題となり得ます。会社は、人員配置の必要性だけでなく、労働者にどのような不利益が生じるのかも考える必要があります。

もっとも、負担があるというだけで、すべての異動を拒否できるわけではありません。通勤時間が少し長くなる、慣れない業務を担当することになる、といった事情だけでは、拒否が難しいこともあります。

判断のポイントは、異動による負担が通常の範囲を超えているかどうかです。生活や健康に大きな影響が出る場合には、単なる不満ではなく、法的にも問題になり得る事情として整理することが大切です。

4-4 ケース4:雇用契約書や就業規則に異動の根拠がない場合

雇用契約書や就業規則に異動の根拠がない場合には、玉突き人事を拒否できる可能性があります

会社が労働者に異動を命じるには、労働契約上の根拠が必要です。多くの会社では、就業規則に「会社は業務上の必要により、配置転換を命じることがある」といった定めを置いています。このような定めがある場合、会社は一定の範囲で異動を命じることができます。

反対に、雇用契約書や就業規則に異動を命じる根拠が見当たらない場合、会社が当然に異動を命じられるとは限りません。特に、採用時から担当業務や勤務場所が明確に決められていた場合には、会社が一方的に変更できる範囲は限られます。

例えば、雇用契約書には現在の勤務地と担当業務だけが書かれていて、就業規則にも配置転換に関する定めがないケースがあります。このような場合、会社が「人が足りないから別の部署へ行ってほしい」と命じても、その命令に従う義務があるのかが問題になります。

そのため、玉突き人事を命じられた場合には、雇用契約書、労働条件通知書、就業規則に、異動や配置転換に関する定めがあるかを確認しましょう

5章 玉突き人事に不満がある場合の対処法

玉突き人事に不満がある場合でも、すぐに拒否や退職を決めるのは避けた方が安全です

異動の理由や条件を確認しないまま動くと、会社から業務命令違反と扱われるおそれがあるためです。

具体的には、玉突き人事に不満がある場合の対処法としては、以下のとおりです。

対処法1:玉突き人事の理由を確認する
対処法2:対応可能な業務を提案し協議する
対処法3:退職勧奨には安易に応じない
対処法4:辞令を出されたら有効性争う

5章 玉突き人事に不満がある場合の対処法

それでは、これらの対処法について順番に説明していきます。

5-1 対処法1:玉突き人事の理由を確認する

玉突き人事に不満がある場合には、まず会社に異動の理由を確認しましょう

理由が分からないままでは、自分が何に納得できないのかを整理できないためです。「異動そのものが嫌なのか」「勤務地が変わることが困るのか」「業務内容が合わないのか」によって、会社へ伝えるべき内容も変わります。

例えば、上司から「来月から別部署へ行ってほしい」とだけ言われたケースでは、次のような点を確認することが考えられます。

・なぜ今回の異動が必要なのか
・なぜ自分が対象になったのか
・異動先で担当する業務は何か
・勤務地や勤務時間は変わるのか
・賃金や役職に変更はあるのか
・異動の開始時期はいつか
・一時的な異動なのか、長期の異動なのか

この段階では、会社を責める言い方をする必要はありません。まずは、「今後の働き方を考えるために確認したいです」と伝えると、話し合いを始めやすくなります。

また、口頭だけの説明では、後から内容があいまいになることがあります。可能であれば、メールやチャットなど、記録に残る形で確認しておくと安心です。

玉突き人事に納得できない場合でも、最初にすべきことは、異動の理由と条件を見える形にすることです。理由が分かれば、会社に何を伝えるべきかも考えやすくなります。

5-2 対処法2:対応できる業務や条件を提案して協議する

玉突き人事をそのまま受け入れることが難しい場合には、対応できる業務や条件を会社に提案して協議しましょう

単に「行きたくありません」と伝えるだけでは、会社からわがままと受け取られるおそれがあります。これに対して、「この条件なら対応できます」と具体的に伝えることで、会社も代わりの案を検討しやすくなります。

例えば、異動先の勤務地が遠くなる場合には、次のように伝えることが考えられます。
家庭の事情で転居は難しいため、現在の自宅から通える範囲での異動を検討していただけないでしょうか。

また、異動先の業務経験がない場合には、次のように伝えることも考えられます。
未経験の業務が多いため、最初の数か月は研修や引継ぎを受けながら担当範囲を広げる形にしていただけないでしょうか。

このように、自分の事情だけでなく、会社が対応しやすい案も一緒に示すことがポイントです

提案内容としては、次のようなものがあります。

・転居を伴わない勤務地にしてほしい
・勤務時間は今と同じにしてほしい
・一定期間は研修を受けたい
・担当業務を段階的に広げたい
・通院や家庭の事情に配慮してほしい

玉突き人事に不満がある場合でも、拒否するか従うかだけで考える必要はありません。条件を調整できないかを話し合うことで、現実的な解決につながることがあります。

5-3 対処法3:退職勧奨には安易に応じない

玉突き人事をきっかけに退職を勧められた場合でも、安易に応じないようにしましょう

退職するかどうかは、労働者自身が決めることです。会社から退職を勧められたとしても、その場で退職届を書いたり、退職に同意したりする必要はありません。

例えば、異動に不満を伝えたところ、上司から「その部署に行けないなら辞めてもらうしかない」と言われるケースがあります。このような場合でも、すぐに退職届を出す必要はありません。

退職を迷っている場合には、次のように答えることが考えられます。

・今すぐ退職するかは判断できません
・退職を前提にした話ではなく、異動条件について話し合いたいです
・退職条件を書面で提示してください
・家族や専門家に相談してから回答します

特に、退職届を出すと、後から撤回することが難しくなる場合があります。強い不満があっても、「もう辞めます」とその場で言い切る前に、一度時間を置いて考えた方が安全です。

また、会社から退職を強く求められている場合には、面談の内容をメモに残しておきましょう。日時、場所、同席者、会社から言われた内容、自分が答えた内容を記録しておくと、後から経緯を確認しやすくなります。

玉突き人事に納得できないことと、退職することは別の問題です。退職の話が出た場合でも、その場の空気に流されず、自分の意思で判断するようにしましょう。

退職合意書の拒否については、以下の記事で詳しく解説しています。

5-4 対処法4:辞令を出されたら有効性を争う

玉突き人事の辞令が出された場合には、必要に応じて辞令の有効性を争うことも検討しましょう

辞令が出ると、「もう決まったことだから従うしかない」と感じるかもしれません。しかし、辞令が出された後でも、異動に納得できない事情がある場合には、会社へ異議を伝える余地があります。

ただし、自己判断で出社しない、異動先で一切勤務しないという対応は避けた方が安全です。会社から欠勤や業務命令違反と扱われるおそれがあるためです

辞令に納得できない場合には、まず次のように、落ち着いて書面やメールで意思を伝えることが考えられます。

・今回の異動には納得していないため、理由を改めて説明してください
・異動先の業務内容や条件を書面で確認させてください
・生活上の事情があるため、異動時期や勤務条件について協議を希望します
・異議を留めたうえで、今後の対応を検討します

「異議を留める」とは、納得して受け入れたわけではないことを示しておくという意味です。これにより、後から会社に「異動に同意していた」と言われるリスクを下げられることがあります。

また、辞令が出された後は、関係資料を整理しておきましょう。雇用契約書、労働条件通知書、就業規則、辞令、会社とのメール、面談メモなどをまとめておくと、自分の状況を説明しやすくなります。

玉突き人事の辞令が出された場合でも、感情的に拒否するのではなく、異議を残し、資料を整理し、今後の対応を慎重に決めることが必要です。自分だけで判断するのが不安な場合には、早めに弁護士へ相談することも検討しましょう。

6章 玉突き人事で辞めるには?上手な退職の方法

玉突き人事を理由に辞める場合でも、勢いで退職届を出すのは避けましょう

退職時期や有給休暇、離職理由を確認しないまま辞めると、不利益を受けることがあるためです。

具体的には、玉突き人事で退職する際の方法としては、以下のとおりです。

方法1:水面下で転職活動をする
方法2:有給休暇を消化する
方法3:会社都合の事由に該当しないか確認する
方法4:弁護士に相談する

6章 玉突き人事で辞めるには?上手な退職の方法

それでは、これらの方法について順番に説明していきます。

6-1 方法1:水面下で転職活動をする

玉突き人事をきっかけに辞めたいと感じても、まずは在職中に転職活動を進めましょう

次の仕事が決まらないまま退職すると、収入が途切れ、焦って条件の合わない会社を選んでしまうおそれがあるためです。

例えば、異動先の業務が自分のキャリアと合わないケースでも、すぐに退職届を出すのではなく、希望する職種、勤務地、年収、勤務時間を整理してから求人を探す方が安心です。

また、転職活動では、会社のパソコンや会社のメールアドレスを使わないようにしましょう。退職を決める前に選択肢を確保しておくことで、落ち着いて判断しやすくなります。

転職活動がバレた場合のクビについては、以下の記事で詳しく解説しています。

6-2 方法2:有給休暇を消化する

退職する場合には、残っている有給休暇を確認しましょう

退職予定者であっても、在籍している間は有給休暇を取得できます。使わないまま退職すると、残っていた有給休暇を消化できずに終わってしまうことがあります。

例えば、退職日まで1か月あり、有給休暇が10日残っているケースでは、引継ぎの日程を考えながら、最終出勤日と有給休暇の取得日を調整することになります。

退職日を決める前に、残日数、申請方法、引継ぎに必要な期間を確認しておくと安心です。退職後に有給休暇を使うことはできないため、早めに準備しましょう。

有給の消化と有給の買取どっちが得かについては、以下の記事で詳しく解説しています。

6-3 方法3:会社都合の事由に該当しないか確認する

玉突き人事を理由に退職する場合には、会社都合の事由に該当しないか確認しましょう

自分から退職届を出した場合でも、退職に至った事情によっては、雇用保険上、単なる自己都合退職とは異なる扱いになることがあります。

ハローワークインターネットサービスでは、特定受給資格者の範囲として、「事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者」が挙げられています。

ハローワークでは、離職票の内容に疑問がある場合、労働者側から事情を説明できます。辞令、会社とのメール、面談メモ、労働条件通知書などを整理しておくと、退職に至った経緯を伝えやすくなります。

玉突き人事で辞める場合でも、「退職届を出したから必ず自己都合」と決めつけず、離職理由を確認しておきましょう

6-4 方法4:弁護士に相談する

玉突き人事を理由に退職するか迷う場合には、退職届を出す前に弁護士へ相談することも検討しましょう

退職後になると、会社との交渉や資料の確保が難しくなることがあるためです。特に、退職勧奨を受けている場合、賃金や役職が下がる場合、異動に強い不満がある場合には、早めの相談が有効です。

例えば、会社から「異動を受け入れないなら辞めてほしい」と言われているケースでは、その場で退職届を出すと、後から争いにくくなることがあります。

弁護士に相談すれば、退職する前に、会社への伝え方、残すべき証拠、退職条件の交渉方法を整理できます。感情的に辞める前に、自分の権利と選択肢を確認しておきましょう。

退職勧奨の条件交渉については、以下の記事で詳しく解説しています。

7章 玉突き人事についてよくある疑問

玉突き人事についてよくある疑問としては、以下の4つがあります。

Q1:玉突き人事は誰が悪い?
Q2:玉突き人事は違法?
Q3:本人の同意なく玉突き人事を命じられますか?
Q4:玉突き人事で降格や賃金減額をされることはありますか?

7章 玉突き人事についてよくある疑問

これらの疑問を順番に解消していきましょう。

7-1 Q1:玉突き人事は誰が悪い?

A.玉突き人事は、必ず誰かが悪いというものではありません

会社では、退職、休職、昇進、組織変更などにより、どうしても人員を動かす必要が出ることがあります。その結果として、複数の社員が連鎖的に異動することがあります。

もっとも、十分な説明がないまま異動を命じられると、労働者としては不満を感じるのも自然です。問題は「誰が悪いか」よりも、異動の理由が合理的か、自分への負担が大きすぎないかという点です。

7-2 Q2:玉突き人事は違法?

A.玉突き人事が直ちに違法になるわけではありません

会社には、業務上の必要に応じて社員の配置を決める権限があります。そのため、人員不足や欠員補充のために異動を命じること自体は、違法とは限りません。

ただし、職種や勤務地が限定されている場合、退職に追い込む目的がある場合、労働者に大きすぎる負担を課す場合などには、違法となる可能性があります。玉突き人事という名前ではなく、異動の内容や目的を見て判断することになります。

7-3 Q3:本人の同意なく玉突き人事を命じられますか?

A.本人の同意がなくても、玉突き人事を命じられることはあります

雇用契約書や就業規則に、会社が配置転換を命じることができる旨の定めがある場合には、会社が個別の同意なしに異動を命じられることがあります。

ただし、職種や勤務地が限定されている場合には、本人の同意なくその範囲を超える異動を命じることは難しくなります。また、異動の目的や労働者への負担に問題がある場合にも、命令が無効となる可能性があります。

そのため、「同意していないから必ず拒否できる」とも、「会社の命令だから必ず従うしかない」ともいえません。契約内容や異動の事情を確認する必要があります。

7-4 Q4:玉突き人事で降格や賃金減額をされることはありますか?

A.玉突き人事をきっかけに、役職や賃金が変わることはあります

ただし、異動できることと、自由に降格や賃金減額ができることは別です。会社が役職を下げる場合や賃金を減らす場合には、就業規則や賃金規程などの根拠が必要になります。

例えば、異動先で役職がなくなり、役職手当が支給されなくなるケースがあります。この場合でも、会社が一方的に大きく賃金を下げてよいとは限りません。

玉突き人事により賃金や役職が変わると言われた場合には、どの手当がなくなるのか、基本給は変わるのか、変更の根拠は何かを確認しましょう。賃金減額に納得できない場合には、退職届を出す前に弁護士へ相談することをおすすめします。

勝手に給料を下げられた場合については、以下の記事で詳しく解説しています。

8章 労働問題に強い弁護士を探すなら労働弁護士コンパス

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9章 まとめ

以上のとおり、今回は、玉突き人事とは何かを説明したうえで、拒否できるかどうか。選ばれる人の特徴や辞める方法について解説しました。

この記事が玉突き人事の対象になり困っている人の助けになれば幸いです。

以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

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籾山 善臣

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リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属
不当解雇や残業代、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。
労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。
【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法
【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

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