婚約破棄で慰謝料請求された!正当な理由3つと相場やテンプレート集

婚約破棄で慰謝料請求された!正当な理由3つと相場やテンプレート集

著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣 弁護士

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属
取扱分野は、浮気・不倫問題、離婚問題、労働問題等。
【連載・取材】幻冬舎ゴールドオンライン、ちょこっと弁護士Q&A、東京新聞、毎日新聞、週刊女性他

結婚を取りやめたことへの申し訳なさから、納得できない請求でも受け入れなければならないと考えてしまう方もいます。

しかし、婚約を解消したからといって、慰謝料を支払わなければならないわけではありません。

ホウペン

この記事の要点

・婚約が成立していない場合や、婚約破棄に正当な理由がある場合などには、慰謝料を払わずに済むケースがあります。

・婚約破棄の慰謝料相場は50万~200万円程度とされていますが、破棄に至った経緯や結婚準備の状況などによって具体的な金額は異なり、また、式場のキャンセル料などは別途問題になります。

・慰謝料を請求された場合、無視することなく、婚約から破棄までの状況や証拠を整理したうえで、支払いを拒否する旨あるいは減額交渉をしていくことになります。

この記事を読めば、婚約破棄による慰謝料を支払う必要があるのか、請求されたらどのように対処すべきかよくわかるはずです。

目次

1章 婚約破棄の慰謝料を払わなくてよいケース4つ

婚約破棄を理由に慰謝料を請求されても、支払わなくてよいケースがあります。

結婚を取りやめたという事実から慰謝料が認められるわけではなく、婚約が成立していたか、婚約の破棄に正当な理由があるかなどによって判断も変わってくるためです。

例えば、婚約破棄の慰謝料を払わなくてよいケースとして、以下の4つが挙げられます。

ケース1:法律上の婚約が成立していない
ケース2:婚約破棄に正当な理由がある
ケース3:慰謝料を支払わない合意が成立している
ケース4:消滅時効が成立し、時効を主張できる

1章 婚約破棄の慰謝料を払わなくてよいケース4つ

それでは、婚約破棄の慰謝料を払わなくてよいケースについて説明していきます。

1-1 ケース1:法律上の婚約が成立していない

法律上の婚約が成立していなければ、婚約破棄を理由とする慰謝料を支払う必要はありません。

婚約とは、双方の意思に基づき将来の結婚を約束することです。

口約束でも婚約は成立しますが、「いつか結婚できたらいいね」と話していただけでは、婚約と認められない場合があります。

例えば、婚約が成立していたかどうかは、以下のような事情を考慮して判断されます。

・プロポーズをして相手が承諾していたか
・婚約指輪を贈ったり受け取ったりしていたか
・両親や親族への結婚の挨拶や、両家の顔合わせをしていたか
・結納を交わしていたか
・結婚する時期を具体的に決めていたか
・結婚式場の予約など、挙式に向けた準備を進めていたか
・結婚後に暮らす新居を探したり契約したりしていたか
・婚姻届に双方が署名するなど、提出に向けた準備をしていたか
・友人や職場の人などに婚約者として紹介していたか

これらの事情が揃っている必要はなく、婚約指輪や結納がなかったとしても、婚約が成立していたと判断される場合もあります。

「婚約していた」と言われても、結婚についてどのような約束を交わし、どこまで準備を進めていたか確認することになります。

単なる交際と婚約・内縁の違いや、恋人同士でも浮気の慰謝料が認められるケースについては、以下の記事で詳しく解説しています。

1-2 ケース2:婚約破棄に正当な理由がある

婚約が成立していたとしても、婚約破棄に正当な理由があれば、慰謝料を支払う必要はありません。

正当な理由とは、社会常識に照らして、結婚を取りやめることもやむを得ないと認められる事情をいいます。

例えば、相手の浮気や暴力が原因で結婚を取りやめた場合には、正当な理由があるとして、慰謝料の支払義務が否定されることがあります。

自分から別れを切り出した場合でも、婚約を解消する正当な理由があれば慰謝料が認められるとは限らないのです。

ただし、正当な理由があるかどうかは、婚約破棄に至った経緯や相手の言動などを踏まえて判断されます。

そのため、慰謝料を請求された場合、婚約を破棄した理由を確認し、正当な理由があることを主張していくことになります。

1-3 ケース3:慰謝料を支払わない合意が成立している

婚約破棄について慰謝料を支払わない旨の合意が成立していれば、合意の対象となった慰謝料については支払う必要がありません。

合意が成立していれば、後から気が変わって慰謝料を請求したくなったとしても、一方的に変更することはできないためです。

例えば、婚約を解消する際に「今回の婚約解消について、お互いに慰謝料を請求しない」と取り決め、合意書に記載していた場合などが挙げられます。

ただし、婚約破棄について同意しただけでは不十分で、慰謝料を請求しないことまで合意しているとは限りません。

また、慰謝料を支払わない合意があっても、式場のキャンセル料など付随する問題まで解決しているかは合意内容によって異なります。

そのため、慰謝料を請求された場合は、合意書や当時の状況などから慰謝料を支払わない旨の合意が成立していたかを見ていくことになります。

合意後に慰謝料を請求された場合に確認すべき事項や、追加請求への対応については、不倫の示談を例に、以下の記事で詳しく解説しています。

1-4 ケース4:消滅時効が成立し、時効を主張できる

婚約破棄による慰謝料請求権の消滅時効が完成していれば、支払いを拒める場合があります。

婚約破棄の慰謝料は、結婚の不履行を理由とする「債務不履行」と、相手を傷つけたことを理由とする「不法行為」のどちらを根拠とするかによって時効期間が異なります。

・債務不履行:相手が請求できることを知った時から5年、または請求できる時から10年のうち、早い方
・不法行為:相手が損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年のうち、早い方

そのため、婚約破棄から3年が経過していても、債務不履行に基づく請求ができる場合には、慰謝料を請求される可能性があります。

慰謝料を請求された場合、婚約や婚約破棄の時期のほか、請求の根拠などを確認し、時効を主張できるか判断していくことになります。

2章 婚約破棄の正当な理由とは?認められやすい例/認められにくい例

婚約破棄の正当な理由とは、社会常識に照らして、結婚を取りやめることもやむを得ないと認められる事情をいいます。

例えば、婚約破棄の正当な理由として認められやすい例と認められにくい例には、以下のようなものがあります。

認められやすい例1:相手が浮気をしていた
認められやすい例2:相手から暴力やモラハラを受けていた
認められやすい例3:相手が多額の借金など重要な事実を隠していた
認められにくい例1:親の反対だけで結婚を取りやめた
認められにくい例2:マリッジブルーや単なる心変わりで結婚を取りやめた

2章 婚約破棄の正当な理由とは?認められやすい例認められにくい例

それでは、婚約破棄の正当な理由として認められやすい例と認められにくい例について、順番に説明していきます。

2-1 認められやすい例1:相手が浮気をしていた

婚約後に相手が浮気していた場合、婚約破棄に正当な理由があると認められやすくなります。

婚約相手の浮気は、信頼関係を破壊する行為であり、結婚を取りやめることもやむを得ないと考えられるためです。

例えば、婚約中に別の人と肉体関係を持っていたことが発覚し、それを理由に結婚を取りやめた場合などが挙げられます。

このような場合、慰謝料請求を拒めるだけでなく、反対に慰謝料を請求できる可能性もあります。

ただし、相手が浮気していたことは、正当な理由を主張する側が説明しなければいけません。

そのため、慰謝料を請求された場合は、浮気の証拠を集め、婚約破棄の原因が浮気であることを証拠をもとに主張していくことになります。

相手の浮気を裏付ける証拠の種類や、証拠を集める際の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。

2-2 認められやすい例2:暴力やモラハラを受けていた

相手から暴力やモラハラを受けていた場合、婚約破棄に正当な理由があると認められやすくなります。

日常的に傷つけられるような状況に置かれている場合、円満な結婚生活を送ることは難しく、結婚を取りやめることもやむを得ないと考えられるためです。

例えば、殴る、蹴るといった暴力を受けていた場合や、人格を否定するような暴言を繰り返され、精神的に追い詰められていた場合などが挙げられます。

ただし、モラハラを主張する場合は、実際にどのような言動があったのかを証拠から説明する必要があります。

そのため、慰謝料を請求された場合、怪我の写真や診断書、暴言の録音、LINEなどの証拠を集め、暴力やモラハラが原因であることを主張することになります。

恋人から暴力やモラハラを受けた場合など、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できるケースについては、以下の記事で詳しく解説しています。

2-3 認められやすい例3:相手が多額の借金など重要な事実を隠していた

相手が多額の借金など、結婚生活にも影響する事実を隠していた場合、婚約破棄に正当な理由があると認められやすくなります。

結婚後の生活設計に関わる重要な事実を隠していた場合、信頼関係が損なわれ、結婚を取りやめることもやむを得ないと考えられるためです。

例えば、「借金はない」と説明されていたのに、実際には返済の見通しが立たない多額の借金を抱えていた場合などが挙げられます。

また、職業などの経歴について、結婚するかどうかの判断を左右するような虚偽の説明があった場合も、正当な理由として認められる可能性があります。

ただし、借金がある場合でも、借金の金額や返済の見込みのほか、どのような説明を受けていたかなどを踏まえて判断されます。

そのため、慰謝料を請求された場合は、借金の内容がわかる資料や相手とのやり取りを確認し、隠されていた事実と、それが結婚生活に及ぼす影響を具体的に主張していくことになります。

2-4 認められにくい例1:親の反対だけで結婚を取りやめた

親の反対を理由に結婚を取りやめた場合、婚約破棄の正当な理由は認められにくくなります。

婚約は当事者同士が交わす結婚の約束であり、第三者の賛否は別の問題であるためです。

例えば、親から「相手が気に入らない」「家柄が合わない」などと言われ、それに従って結婚を取りやめた場合などが挙げられます。

ただし、相手の暴力や隠していた多額の借金などを理由に親が反対していた場合には、その原因となった事情が婚約破棄の正当な理由に当たる可能性があります。

そのため、慰謝料を請求された場合は、親が反対していたという事実に加え、反対の理由や婚約破棄に至った経緯を確認していくことになります。

2-5 認められにくい例2:マリッジブルーや単なる心変わりで結婚を取りやめた

マリッジブルーや単なる心変わりを理由に結婚を取りやめた場合、婚約破棄の正当な理由は認められにくくなります。

結婚を前に将来への不安を感じたり、気持ちが変わったとしても、婚約破棄がやむを得ないとは評価されにくいためです。

例えば、「結婚後に自由な生活がなさそうで不安になった」「相手への愛情が薄れた」「他に好きな人ができた」などの理由から結婚を取りやめた場合が挙げられます。

結婚する意思がなくなった場合、結婚を強制されることはありません。

ただし、結婚を強制されないことと、婚約破棄の慰謝料を支払う必要があるかは別の問題です。

不安の原因が過去の暴力や浮気などにある場合には、その事情が婚約破棄の正当な理由に該当する可能性があります。

そのため、慰謝料を請求された場合は、単に「マリッジブルーだった」と説明するだけでなく、結婚を取りやめたいと思った原因や、その経緯を確認していくことになります。

3章 婚約破棄の慰謝料相場は50万~200万円程度

婚約破棄の慰謝料は、50万~200万円程度が相場とされています。

ただし、請求された金額が相場の範囲内であっても、そのまま支払う必要があるとは限りません。

具体的な金額は、婚約破棄に至った経緯や婚約期間、結婚準備の状況などによって異なるためです。

婚約破棄の慰謝料相場を考えるうえでは、以下の3つの点を押さえておくとよいでしょう。

離婚による慰謝料より低額になる傾向がある
慰謝料の増額事由になりやすい事情
慰謝料の減額事由になりやすい事情

3章 婚約破棄の慰謝料相場は50万~200万円程度

それでは、婚約破棄の慰謝料相場と、金額に影響する事情について説明していきます。

3-1 離婚による慰謝料より低額になる傾向がある

婚約破棄の慰謝料は、離婚による慰謝料と比べて低額になる傾向があります。

婚約破棄は将来の結婚に対する期待が損なわれたことが問題となりますが、離婚では構築された夫婦関係が失われることも問題となり、慰謝料を判断する前提が異なるためです。

そのため、離婚する場合の慰謝料相場を示されても、その金額が婚約破棄にもそのまま当てはまるとは限らないのです。

ただし、婚約破棄であれば一律に低額になるわけではなく、交際期間や妊娠・出産の有無などによっては、離婚の場合と同程度の慰謝料が認められることもあります。

慰謝料を請求された場合は、離婚との一般的な相場の違いを踏まえつつ、婚約破棄に至った経緯や相手の生活に与えた影響などから、請求金額が適切かを検討することになります。

不倫が原因で離婚する場合の慰謝料相場や、金額に影響する事情については、以下の記事で詳しく解説しています。

3-2 慰謝料の増額事由になりやすい事情

婚約破棄によって相手が受けた精神的苦痛が大きい場合、慰謝料が増額されることがあります。

結婚への期待が強く、結婚を前提に生活を大きく変えていた場合、婚約破棄による影響も深刻になりやすいためです。

例えば、慰謝料の増額事由になりやすい事情として、以下のようなものが挙げられます。

・交際期間や婚約期間が長かった
・結婚式場の予約や新居の契約など、結婚準備が具体的に進んでいた
・結婚式の直前に一方的に婚約を破棄した
・自分が浮気を繰り返すなど、婚約破棄に至った経緯が悪質だった
・相手が妊娠していた、または二人の子どもを出産していた
・相手が結婚のために退職するなど、生活の基盤を大きく変えていた。

ただし、どの程度増額されるかはケースによっても異なります。

慰謝料を請求された場合は、相手主張の増額事由が実際の状況と一致しているか確認し、精神的苦痛の程度に見合った金額かを検討することになります。

3-3 慰謝料の減額事由になりやすい事情

婚約破棄について慰謝料が認められる場合であっても、個別の事情によっては減額できることがあります。

例えば、慰謝料の減額事由になりやすい事情として、以下のようなものが挙げられます。

・相手にも結婚準備への非協力的な態度など、婚約破棄の原因となる言動があった
・浮気が始まる前から、婚約関係が既に悪化していた
・交際期間や婚約期間が短かった
・結婚式場の予約や新居の契約など、結婚準備があまり進んでいなかった
・浮気が原因の場合、その期間が短く、肉体関係の回数も少なかった
・浮気の発覚後すぐに関係を解消し、説明や謝罪をしていた

慰謝料の金額は、相手が受けた精神的苦痛の程度によっても変わります。

そのため、結婚準備が進んでいなかったことや、浮気の期間・回数が限られていたことなどは、慰謝料を減額する事情として考慮されることがあります。

また、相手にも婚約破棄の原因となる言動があれば、双方の責任の程度に応じて減額されることがあります。

4章 婚約破棄の慰謝料とは別に請求されるおそれのある費用4つ

婚約破棄では、慰謝料に加えて、結婚準備にかかった費用などを請求されることがあります。

慰謝料は精神的苦痛に対するお金であり、結婚が取りやめになったことで生じた経済的な損失については、別に賠償が問題となるためです。

例えば、慰謝料とは別に請求されるおそれのあるものとして、以下の4つが挙げられます。

費用1:結婚式場や新婚旅行のキャンセル料
費用2:新居の契約や引っ越しにかかった費用
費用3:結納金や婚約指輪の返還・代金
費用4:結婚のために退職して失った収入

4章 婚約破棄の慰謝料とは別に請求されるおそれのある費用4つ

それでは、婚約破棄の慰謝料とは別に請求されるおそれのある費用について、順番に説明していきます。

4-1 費用1:結婚式場や新婚旅行のキャンセル料

結婚式場や新婚旅行のキャンセル料は、慰謝料が認められない場合でも、負担しなければならないことがあります。

まず、正当な理由なく婚約を破棄した場合には、相手が負担したキャンセル料について、慰謝料とは別に損害賠償を求められることがあります。

この場合、慰謝料は精神的苦痛を補うものであり、キャンセル料の賠償は経済的な損失を補うものであり、両者は別のものになります。

一方で、お互いに納得して婚約を解消し、慰謝料が発生しない場合でも、「キャンセル料は折半する」と合意していれば、その合意に基づく支払い義務が発生します。

裁判例では、双方の合意で婚約を解消した事案で、式場のキャンセル料137万9458円について、半額を負担する義務を認めたものがあります(東京地判平成28年12月7日)。

また、自分が式場や旅行会社の契約者になっていれば、婚約破棄について責任がなくても、契約に基づいて業者からキャンセル料を請求されることがあります。

式場や旅行会社へ支払う前には、相手にも請求書などを示し、金額や内訳を共有しておくことが大切です。

相手にも費用の負担を求める場合は、負担割合や精算方法について話し合っておきましょう。

自分が先に全額を支払っても、相手が支払いに応じるとは限らないためです。

ただし、話し合いが続いていても、業者への支払期限が自動で延びるわけではない点には注意が必要です。

4-2 費用2:新居の契約や引っ越しにかかった費用

婚約を破棄した場合、新居の契約や引っ越しにかかった費用についても、慰謝料とは別に求められることがあります。

結婚生活のために支出した費用が、婚約破棄によって無駄になってしまうためです。

例えば、新居を借りる際の礼金や仲介手数料、新居への引っ越し代などが挙げられます。

裁判例では、相手の浮気によって婚約が破棄された事案で、新居への引っ越し費用6万1000円を損害として認めたものがあります(東京地判平成17年3月17日)。

ただし、相手が婚約解消後も新居に住み続ける場合には、支出した費用のすべてが無駄になったとはいえず、賠償の必要な範囲が限定されることがあります。

また、敷金などが返還された場合、その金額を差し引いて損失を計算する必要があります。

なお、婚約解消に際して「新居の初期費用は折半する」などと合意していた場合、合意に基づく費用の支払いが必要になります。

4-3 費用3:結納金や婚約指輪の返還・代金

結納金や婚約指輪は、慰謝料が認められない場合でも、返還を求められることがあります。

結婚を前提に贈られたものであり、婚約が破棄されるとその前提が失われるためです。

例えば、双方の合意で婚約を解消した場合でも、受け取った結納金や婚約指輪は原則として返還することになります。

ただし、贈った側の浮気などが婚約破棄の原因であれば、返還を拒める場合があります。

裁判例では、合意により婚約を解消した事案で、解消に至った経緯や双方の責任の程度を踏まえ、結納金100万円のうち50万円の返還を認めたものがあります(東京地判平成28年12月7日)。

婚約指輪を売却するなどして返還できない場合は、金銭での精算を求められることがあります。

その場合も、購入代金の全額を支払う必要があるかは、指輪の価値や処分の経緯などによって異なります。

4-4 費用4:結婚のために退職して失った収入

相手が結婚のために退職していた場合、失った収入について、慰謝料とは別に賠償を求められることがあります。

結婚を信じて退職したにもかかわらず、本来働き続けていたのであれば得られたはずの収入を失っているためです。

例えば、退職を求めて相手が退職した後に、正当な理由なく婚約を破棄した場合などが挙げられます。

裁判例では、結婚を前提に勤務先を退職した事案で、給与から生活費を差し引いた月額5000円の2年6か月分に当たる15万円を、退職による損害として認めたものがあります(東京地判昭和34年12月25日)。

ただし、退職の必要性や退職に至った経緯によっては、減収分の賠償が認められないこともあります。

賠償が認められる場合も、再就職までに必要な期間などを踏まえて、対象となる期間や金額が判断されることになります。

結婚前の浮気によって婚約を解消した場合に、退職による減収や結婚準備の費用を請求できるかについては、以下の記事で詳しく解説しています。

5章 婚約破棄で慰謝料を請求された場合の対処法5つ

婚約破棄で慰謝料を請求された場合は、婚約破棄に至った経緯などによって、慰謝料が認められるのか、妥当な金額は異なるため、請求内容を確認してから対応することが大切です。

具体的には、婚約破棄で慰謝料を請求された場合の対処法として、以下の5つが挙げられます。

対処法1:請求を無視しない
対処法2:婚約から破棄までの状況を整理する
対処法3:弁護士に相談する
対処法4:支払いの拒否/減額交渉をする
対処法5:示談書を作成する

5章 婚約破棄で慰謝料を請求された場合の対処法5つ

それでは、婚約破棄で慰謝料を請求された場合の対処法について、順番に説明していきます。

5-1 対処法1:請求を無視しない

婚約破棄で慰謝料を請求された場合は、相手からの連絡や請求書を無視しないようにしましょう。

放置すると、話し合いによる解決が難しくなり、裁判に発展するおそれがあるためです。

例えば、内容証明郵便が届いたら、請求の理由や金額の内訳、回答期限を確認しましょう。

期限までに判断できない場合は、確認に時間が必要であることを伝え、回答期限の延長を求めることになります。

ただし、焦って支払いを合意したり、内容を確かめずに示談書へ署名することは避けた方がよいでしょう。

また、裁判所から訴状が届いた場合は、請求に対する自分の言い分を記した答弁書を期限までに提出し、指定された裁判期日に出席しましょう。

出席が難しい場合は、事前に裁判所へ連絡して必要な対応を確認しておきましょう。

慰謝料請求を無視するリスクや、内容証明郵便・訴状などが届いた場合の対応については、以下の記事で詳しく解説しています。

5-2 対処法2:婚約から破棄までの状況を整理する

婚約破棄で慰謝料を請求された場合は、婚約から別れるまでの出来事を、日付順に整理しておきましょう。

法律上の婚約が成立していたか、婚約破棄に正当な理由があったかを判断する際に必要になるためです。

例えば、結婚の約束をした際の会話や両親への挨拶、式場の予約、別れを切り出した際のやり取りなどを書き出しておきましょう。

相手の浮気やモラハラが婚約破棄の理由であれば、いつ、どのようなことがあったのかも具体的に記載しておくとよいでしょう。

5-3 対処法3:弁護士に相談する

婚約破棄で慰謝料を請求された場合は、弁護士への相談がおすすめです。

慰謝料請求の見通しや、請求金額の妥当性について、法的な助言を受けられるためです。

例えば、相手のモラハラを理由に婚約を破棄した場合、その言動が婚約破棄の正当な理由に該当するのか、証拠が足りているのか、どのような証拠が必要であるのかなどの助言を受けられます。

また、交渉を依頼すれば、相手方とのやり取りを任せてしまうこともでき、支払いの拒否や減額交渉を進めてもらうことができます。

婚約破棄で慰謝料を請求されてしまい、相手方との交渉や手続きに不安がある場合は、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

5-4 対処法4:支払いの拒否/減額交渉をする

婚約破棄で慰謝料を請求された場合は、事情に応じて支払いの拒否や減額交渉を行いましょう。

請求されたからといって、相手方の主張内容や請求金額がそのまま認められるわけではないためです。

例えば、相手の浮気を理由に婚約を破棄した場合は、浮気を認めたメッセージなどを示し、正当な理由があるため支払拒否する旨を回答していくことになります。

仮に、慰謝料が認められる場合でも、相手にも婚約破棄の原因があったことなどを説明し、減額を求められる場合もあります。

減額交渉では、減額を求める理由とともに、こちらが妥当と考える金額を具体的に伝えましょう。

慰謝料の減額交渉の進め方や、交渉がまとまらない場合の対応については、不倫慰謝料を例に、以下の記事で詳しく解説しています。

5-5 対処法5:示談書を作成する

話し合いで慰謝料などについて合意できた場合は、その内容をまとめた示談書を作成しましょう。

口約束のままでは、後から合意内容を争われたり、追加で金銭を請求されるおそれがあるためです。

示談書には、慰謝料の支払いの有無や、支払う場合の金額・期限・方法を具体的に記載することになります。

結婚式場のキャンセル料の負担や婚約指輪の返還についても、合意した内容を明記しておきましょう。

また、婚約破棄に関する問題をすべて解決できた場合は、示談書に定めたもの以外に互いに請求しないことを確認する「清算条項」も定めておきましょう。

双方が内容を確認して署名し、それぞれ1通ずつ保管することになります。

示談書に記載する支払条件や清算条項の書き方については、不倫慰謝料の示談書を例に、以下の記事で詳しく解説しています。

6章 婚約破棄の慰謝料請求に対する回答例文・テンプレート3つ

婚約破棄の慰謝料を請求されても、どのような文章で回答すればよいか迷う方は少なくありません。

回答する際は、請求に応じられない理由や、希望する解決内容を具体的に伝えていく必要があります。

ここでは、以下の3つの場合に分けて、回答例文・テンプレートを紹介します。

例文1:婚約が成立していないとして支払いを断る場合
例文2:婚約破棄に正当な理由があるとして支払いを断る場合
例文3:請求金額の減額を求める場合

6章 婚約破棄の慰謝料請求に対する回答例文・テンプレート3つ
実際に使用する際は、事実関係や請求内容に合わせて修正してください。

それでは、婚約破棄の慰謝料請求に対する回答例文・テンプレートを順番に紹介していきます。

6-1 例文1:婚約が成立していないとして支払いを断る場合

婚約が成立していないとして支払いを断る場合は、結婚の合意がなかったことを具体的に説明しましょう。

交際していたことや結婚の話題が出ていたとしても、法律上の婚約が成立しているとは限らないためです。

例えば、以下のような回答が考えられます。

・例1:「婚約を破棄したとして慰謝料を請求されていますが、貴殿と結婚する約束をした事実はありません。そのため、婚約破棄を理由とする今回の慰謝料請求には応じられません。」

・例2:「ご指摘の『いつか結婚できたらいいね』という発言は、将来の希望を述べたものであり、双方が結婚を約束したものではありません。婚約は成立していないため、今回の慰謝料請求には応じられません。」

・例3:「貴殿から結婚を申し込まれた際には、まだ結婚は決められないと回答しました。その後も結婚する合意はしていないため、婚約破棄を理由とする慰謝料の支払いには応じられません。」

ただし、口約束でも婚約は成立し得るため、結納や婚約指輪がないことを理由に婚約の成立を否定できるわけではないため注意が必要です。

6-2 例文2:婚約破棄に正当な理由があるとして支払いを断る場合

婚約破棄に正当な理由があるとして支払いを断りたい場合は、結婚を取りやめた原因となる具体的な行為を説明しましょう。

例えば、以下のような回答が考えられます。

・例1:「婚約を解消したのは、婚約後に貴殿が第三者と肉体関係を持っていたことが判明したためです。貴殿の浮気を理由とする婚約解消には正当な理由があるため、今回の慰謝料請求には応じられません。」

・例2:「貴殿から殴る・蹴るなどの暴力や、人格を否定する暴言を繰り返し受けたため、安心して結婚生活を送ることはできないと判断しました。これらの行為を理由に婚約を解消したものであり、慰謝料の請求には応じられません。」

・例3:「貴殿から借金はないとの説明を受けて婚約しましたが、実際には返済の見通しが立たない多額の借金を隠していたことが判明しました。このような重要な事実を偽られていたことが婚約解消の理由であり、慰謝料の請求には応じられません。」

回答する際は、相手が浮気を認めたLINEや暴力による怪我の診断書など、記載事実を裏付けられる証拠も確認しておきましょう。

浮気を認めたLINEなどが証拠になるケースや、やり取りを保存する際の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。

6-3 例文3:請求金額の減額を求める場合

請求金額の減額を求めたい場合は、減額を求める理由と、こちらが提案する金額を具体的に伝えましょう。

例えば、以下のような回答が考えられます。

・例1:「ご請求の慰謝料〇〇万円については、婚約破棄に至った経緯や類似する事案の慰謝料額に照らし、高額であると考えています。慰謝料〇〇万円での解決をご検討ください。」

・例2:「貴殿から仕事や収入を繰り返し侮辱されたことも、関係が悪化した原因となっています。この事情も考慮し、慰謝料を〇〇万円に減額することをご検討ください。」

・例3:「現在の手取り収入は月〇〇万円で、生活費を差し引くと、支払いに充てられるのは毎月〇万円程度です。まとまった預貯金もなく、請求された金額を支払うことは困難です。総額を〇〇万円に減額し、毎月〇万円ずつ分割で支払う条件をご検討いただきたく存じます。」

ただし、婚約の成立や支払義務を争う場合は、状況を踏まえ、安易に婚約を認めたり、支払いを約束するような内容にならないよう注意しましょう。

請求された慰謝料を支払う余裕がない場合の対処法や、減額・分割払いの交渉については、以下の記事で詳しく解説しています。

7章 婚約破棄で慰謝料を請求された場合のよくある疑問5つ

婚約破棄で慰謝料を請求された場合によくある疑問として、以下の5つに回答します。

Q1:浮気相手も慰謝料を請求される?
Q2:相手の親に慰謝料を支払う必要はある?
Q3:話し合いで解決しなければ調停や裁判になる?
Q4:慰謝料の請求から解決までの期間はどのくらい?
Q5:慰謝料を請求された側の弁護士費用はいくらかかる?

7章 婚約破棄で慰謝料を請求された場合のよくある疑問5つそれでは、これらの疑問を解消していきましょう。

7-1 Q1:浮気相手も慰謝料を請求される?

A.婚約中の浮気が原因で婚約破棄に至った場合、自分の浮気相手も、原則として慰謝料を請求される対象となります。

婚約は法律上保護される関係であり、浮気相手もその関係を侵害した責任を問われるためです。

例えば、婚約していることを伝えていた相手と肉体関係を持ち、その浮気が原因で結婚を取りやめた場合には、双方に慰謝料を請求されることがあります。

ただし、浮気相手が婚約の事実を知らず、知らなかったことに過失もない場合は、慰謝料が認められないこともあります。

7-2 Q2:相手の親に慰謝料を支払う必要はある?

A.婚約破棄によって相手の親も精神的苦痛を受けたというだけでは、原則として親自身に慰謝料を支払う必要はありません。

婚約は結婚する当事者同士の約束であり、婚約破棄による慰謝料を請求できるのも、基本的には婚約を破棄された本人であるためです。

例えば、親から「自分も傷ついた」「親族に顔向けできない」と言われても、親が慰謝料を請求できるわけではありません。

親から請求された場合は、婚約者本人の慰謝料を代わりに求めているのか、親自身の精神的苦痛に対する慰謝料を求めているのかを確認しましょう。

7-3 Q3:話し合いで解決しなければ調停や裁判になる?

A.当事者同士の話し合いで解決しない場合、相手から調停を申し立てられたり、訴訟を提起されることがあります。

家庭裁判所の調停では、調停委員を介して、慰謝料の支払いの有無や金額について話し合うことになります。

双方が合意すれば調停が成立しますが、合意できなければ調停は不成立で終了します。

調停が不成立となった後、相手が裁判所の判断を求める場合には、別途、慰謝料請求の訴訟を提起されることになります。

訴訟では、双方の主張や証拠をもとに、裁判所が慰謝料の支払義務や金額を判断します。

ただし、訴訟の途中でも、双方が合意すれば和解によって解決できます。

慰謝料請求の訴訟の流れや、和解による解決については、不倫慰謝料の裁判を例に、以下の記事で詳しく解説しています。

7-4 Q4:慰謝料の請求から解決までの期間はどのくらい?

A.婚約破棄の慰謝料請求は、話し合いで解決できれば数か月程度で解決することもあります。

例えば、慰謝料の有無自体には争いがなく、金額や支払い方法の調整で合意できる場合には、比較的短期間で解決しやすくなります。

他方で、婚約の成立や婚約破棄の理由を争われて訴訟になった場合、解決まで1年以上かかることもあります。

調停を経てから訴訟に進む場合には、それぞれの手続にかかる期間を合わせて考える必要があります。

早期の解決を目指すには、請求に対して争う点を明確にし、証拠を揃えてから話し合いを進めることが大切です。

7-5 Q5:慰謝料を請求された側の弁護士費用はいくらかかる?

A.婚約破棄の慰謝料について交渉を依頼する場合、着手金は22万~33万円程度(税込)と設定されていることがあります。

これに加えて、減額できた金額に応じた報酬金がかかることが一般的とされています。

例えば、着手金33万円、報酬金が減額分の11%という契約で、300万円の請求を100万円に減額できた場合、着手金と報酬金の合計は55万円程度(税込)となります。

このほか、郵送料や交通費などの実費や、調停・訴訟に進む際の追加費用がかかる場合もあります。

料金体系は事務所によって異なるため、依頼前に減額の見込みと弁護士費用の総額を確認しておきましょう。

慰謝料の減額を依頼する際の弁護士費用の内訳や、依頼先を選ぶ際の確認事項については、以下の記事で詳しく解説しています。

8章 不倫慰謝料に強い弁護士を探すなら弁護士コンパス

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9章 まとめ

以上のとおり、今回は、婚約破棄で慰謝料を請求された場合に払わなくてよいケースを説明したうえで、正当な理由や慰謝料請求された場合の対処法と回答テンプレートを解説しました。

この記事が、婚約破棄による慰謝料を支払う必要があるのか、請求されたらどのように対処すべきか知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

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著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣 弁護士

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。
取扱分野は、浮気・不倫問題、離婚問題、労働問題等。
【連載・執筆等】幻冬舎ゴールドオンライン、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他
【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

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