サービス残業の黙認は違法|上司の原因や黙認の例と簡単な対処法4つ

サービス残業の黙認は違法|上司の原因や黙認の例と簡単な対処法4つ

著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日


上司からサービス残業を黙認されていて困っていませんか

会社も、あなたが残業をしていることを知って何も言わないのですから、残業代を支払ってほしいと感じるのも当然ですよね。

サービス残業の黙認とは、労働者が残業していることを見て見ぬふりをしていることをいいます

会社は、残業を黙認している以上は残業代を支払う義務がありますので、サービス残業の黙認は違法となります。

サービス残業の黙認という状態が生じる原因は、上司にあることが多いです。

例えば、サービス残業の黙認に該当する例は、以下のような場合です。

例1:残業があるタイムカードを承認しているケース
例2: 終業時刻後も職場で業務をしているところを見ているケース
例3:メールやチャットで労働時間の報告を受けているケース
例4:遅くまで働いていることを称賛しているケース
例5:終業時刻後にメールでやり取りしているケース

もし、あなたがサービス残業を黙認されている場合には、残業代を取り戻すために積極的に行動をしていくことが大切です。

実は、労働者の善意に付け込んで、労働者が勝手に働いているだけなどの言い訳を述べて、適正な残業代の支払いをしない会社が後を絶ちません

勇気を出してサービス残業はおかしいと声をあげる人が増えることで、このような会社も減っていくはずです。

この記事をとおして、サービス残業を黙認されている方々に必要な知識やノウハウをわかりやすくお伝えしていくことができれば幸いです。

今回は、サービス残業の黙認は違法であることを説明したうえで、上司の原因や黙認の例と簡単な対処法4つを解説していきます。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、サービス残業を黙認されている場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。

1章 サービス残業の黙認って何?

サービス残業の黙認って何?

サービス残業の黙認とは、労働者が残業していることを見て見ぬふりをしていることをいいます

会社は、本来、労働者が本来の労働時間を超えて働いた場合には、残業代を支払う義務があります。

しかし、残業代に対する認識が甘く、労働者が何も言わずに働いてくれるのだからいいやと考えている会社が後を絶ちません

労働者の善意に付け込んで人件費を安く済ませようとしている会社もあります。

労働者としても、雇用主や管理職との関係が悪化してしまうことを防ぐために、残業代を払ってほしいとは言いにくいことが多いです。

このようにサービス残業の黙認というのは、会社が労働者の残業を知りながら止めようとしないにもかかわらず、残業代の支払いもしないような状況のことをいいます。

2章 サービス残業の黙認は違法

サービス残業の黙認は、違法となります。

労働基準法上、会社は、労働者が残業をした場合には、残業代の支払い義務があるためです。

労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
1「使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」

もし、会社側は、労働者が残業をしていることを把握していない場合には、会社の指揮監督下にあったとはいえないため、残業代の支払い義務を負わないこともあります

しかし、会社側が、サービス残業を黙認していたのであれば、残業を知りつつ止めなかったことになり、会社の指揮監督下にあったことになります。

例えば、会社は、残業を知りつつこれを止めなかったのであれば、労働者が勝手に働いていたなどとの言い分で残業代の支払いをしないことはできないのです。

残業代の支払い怠った者は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金を科される可能性があります

労働基準法119条
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一 …第三十七条…の規定に違反した者

このように会社がサービス残業を黙認することは違法であり、刑罰が科されることもあります。

3章 サービス残業の黙認は上司に原因があることも多い

サービス残業の黙認という状態が生じる原因は、上司にあることが多いです。

直接的にあなたの労務管理を行っているのは、あなたの上司であるためです。

例えば、上司によりサービス残業の黙認が生じる原因としては、以下の3つがあります。

原因1:残業申請をしにくい雰囲気
原因2:定時で帰らせないプレッシャー
原因3:終業時刻直前での業務指示

上司によりサービス残業の黙認が生じる原因3つ

それでは、これらの原因について順番に説明していきます。

3-1 原因1:残業申請をしにくい雰囲気

上司によるサービス残業黙認の原因1つ目は、残業申請をしにくい雰囲気です。

残業申請制がとられていると言いながら、実際に申請すると嫌な顔をされたり、誰も申請しておらず形骸化してしまっていたりすることがあります

例えば、残業を申請すると上司から「他の人は誰もこんな申請しないよ」などと言われることもあります。

このように上司が残業の申請をしにくい雰囲気を出していると、申請するくらいならサービス残業でもいいや、サービス残業の黙認状態が生じてしまうことがあるのです。

3-2 原因2:定時で帰らせないプレッシャー

上司によるサービス残業黙認の原因2つ目は、定時で帰らせないプレッシャーです。

定時で帰らないようにプレッシャーをかけられると、帰りにくくなりサービス残業をすることになってしまうことがあります

例えば、定時で帰ろうとする上司から、「もう帰るのか」などと言われるような場合です。

とくにその日のうちに終わらせなければいけない業務があるわけでもないため、残業の申請も行いにくく、15分~30分程度何か仕事をして帰るという方もいるでしょう。

このように上司から定時で帰らせないプレッシャーをかけられていると、サービス残業の黙認状態が生じてしまうことがあるのです。

3-3 原因3:終業時刻直前での業務指示

上司によるサービス残業黙認の原因3つ目は、終業時刻直前での業務指示です。

終業時刻直前にその日のうちに終わらせなければいけない業務を指示されるような場合には、サービス残業をせざるを得なくなってしまうことがあります

また、終業時刻直前での指示だと、事前に残業の申請を行うことも難しいことがあります。

このように上司から終業時刻直前での業務指示があると、残業の申請を行うことができず、サービス残業の黙認状態が生じてしまうことがあるのです。

4章 サービス残業の黙認となる例5つ

サービス残業の黙認となるのは、会社側が残業を知りながら、かつ、これをやめるようにとの指示などもしていない場合です。

指揮監督下にあったと言えるかどうかが問題となるためです。

具体的には、サービス残業の黙認に該当する例は、以下のような場合です。

例1:残業があるタイムカードを承認しているケース
例2:終業時刻後も職場で業務をしているところを見ているケース
例3:メールやチャットで労働時間の報告を受けているケース
例4:遅くまで働いていることを称賛しているケース
例5:終業時刻後にメールでやり取りしているケース

サービス残業の黙認となる例5つ

それでは、これらの例について順番に説明していきます。

4-1 例1:残業があるタイムカードを承認しているケース

サービス残業の黙認の例の1つ目は、残業があるタイムカードを承認しているケースです。

締日の後にタイムカードや勤怠記録を上司が確認して、承認印を押すようなことがあります。

タイムカード等を見れば労働者が残業をしていたことを認識することができ、異議を唱えず承認印を押していれば、サービス残業を黙認していたといえることもあるでしょう。

4-2 例2:終業時刻後も職場で業務をしているところを見ているケース

サービス残業の黙認の例の2つ目は、終業時刻後も職場で業務をしているところを見ているケースです。

終業時刻後も、あなたが職場で仕事をしている状況を見ていたのであれば、あなたが残業をしていたということは把握することができます。

あなたが残業をしているのを見ていながら、早く帰るようになどの指示を何らしないのであれば、サービス残業を黙認していたと言えることもあるでしょう。

4-3 例3:メールやチャットで労働時間の報告を受けているケース

サービス残業の黙認の例の3つ目は、メールやチャットで労働時間の報告を受けているケースです。

業務の開始前に1日の予定スケジュールを伝えていたり、1日の終了時に労働時間を報告していたりする場合には、報告を受けた上司は残業を知っていたことになります。

このような報告を受けていたのに、残業をしないようにとの指導などをしていないのであれば、サービス残業を黙認していたと言えることもあるでしょう。

4-4 例4:遅くまで働いていることを称賛しているケース

サービス残業の黙認の例の4つ目は、遅くまで働いていることを称賛しているケースです。

残業を知っていなければ称賛できませんし、称賛している以上は残業することを陽ンンしていることになるためです。

例えば、上司があなたに向けて「いつも遅くまでお仕事してくれてありがとうございます」などと言っているような場合です。

このように上司が遅くまで働いていることを称賛しているのであれば、サービス残業を黙認していたと言えることもあるでしょう。

4-5 例5:終業時刻後にメールでやり取りしているケース

サービス残業の黙認の例の5つ目は、終業時刻後にメールでやり取りしているケースです。

終業時刻後にあなたとメールでやり取りをしていれば、終業時刻後にあなたが仕事をしていたことを認識していることになります。

とくに残業を止めることもなく、業務のやり取りを続けていれば、サービス残業を黙認していたと言えることもあるでしょう。

ただし、職場だけではなく、家からもメールを送ることが可能な場合には、継続していて業務をし続けていたとまでは認識できないようなこともあります

仕事を切り上げた後に送り忘れていたメールだけを送ると言ったこともあり得るためです。

5章 サービス残業を黙認されている場合の対処法

もし、あなたがサービス残業を黙認されている場合には、残業代を取り戻すために積極的に行動をしていくことが大切です。

会社は、あなたが何も言わなければ、その善意に付け込んで、いつまで経っても適正な残業代を支払おうとはしません。

具体的には、サービス残業を黙認されている場合の対処法としては、以下の4つです。

対処法1:弁護士に相談する
対処法2:残業と黙認の証拠を集める
対処法3:通知書を送付する
対処法4:労働審判又は訴訟を提起する

サービス残業を黙認されている場合の対処法4つ

それでは、これらの対処法を順番に説明していきます。

5-1 対処法1:弁護士に相談する

サービス残業を黙認されている場合の対処法の1つ目は、弁護士に相談することです。

サービス残業を黙認していたかどうかは法的な評価が必要となりますので、適切な見通しを立てるためには事案に応じて、法律の専門家である弁護士に相談すべきだからです。

残業代を請求した方が良いのか、どの程度回収の見込みがあるのか、費用倒れにならないか、請求のタイミングなど、丁寧に助言してもらうことができるはずです。

ただし、残業代問題は専門性が高いため、労働問題に注力していて、残業代請求に実績のある弁護士を探すといいでしょう。

5-2 対処法2:残業と黙認の証拠を集める

サービス残業を黙認されている場合の対処法の2つ目は、残業と黙認の証拠を集めることです。

労働者と会社側の主張が食い違っている場合には、裁判所は証拠に基づいて判断を行うためです

例えば、残業の証拠としては、タイムカードや勤怠記録、一日の最初と最後に送信したメール、家族に帰宅の連絡をするLINE、残業時間のメモなどがあります。

また、黙認の証拠としては、上司とのメールやチャットのやり取り、録音、勤怠記録やタイムカードの承認印などがあります。

5-3 対処法3:通知書を送付する

サービス残業を黙認されている場合の対処法の3つ目は、通知書を送付することです。

残業代には時効があり、給料日から3年が経った部分から消滅時効が完成していっています。

残業代を請求する旨の通知書を送付しておくことで、催告として、6か月の間、時効の完成が猶予されることになります

この時効の完成が猶予されている間に正確な未払い残業代金額を計算したり、交渉をしたりすることになります。

もし、不足している証拠などがあれば、併せて、会社に対して開示を求めるようにしましょう。

5-4 対処法4:労働審判又は訴訟を提起する

サービス残業を黙認されている場合の対処法の4つ目は、労働審判又は訴訟を提起することです。

話し合いにより解決することが難しい場合には、裁判所を用いた解決を検討することになります。

労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きです。調停が成立しない場合には、労働審判委員会が審判を下します。

審判には雇用主側も労働者側も異議を出すことができ、異議が出た場合には通常の訴訟に移行することになります。

早期に実態に即した解決をすることが期待できる手続きです

訴訟は、期日の回数の制限などはとくにありません。1か月に一回程度の頻度で、裁判所の指揮に応じながら、交互に主張を繰り返していきます。解決まで1年以上を要することもあります。

6章 サービス残業で悩んだら労働弁護士コンパス

サービス残業問題に強い弁護士を探したい場合には、是非、労働弁護士コンパスを活用ください

労働問題は非常に専門的な分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。

労働弁護士コンパスでは、労働問題に注力している弁護士を探すことは勿論、地域や個別の相談内容から、あなたにマッチする最高の弁護士を探すことができます

初回無料相談や電話・オンライン相談可能な弁護士であれば、少ない負担で気軽に相談をすることができます。

どのようにして弁護士を探せばいいか分からないという場合には、まずは試しにこの労働問題弁護士コンパスを使ってみてください。

7章 まとめ

以上のとおり、今回は、サービス残業の黙認は違法であることを説明したうえで、上司の原因や黙認の例と簡単な対処法4つを解説しました。

この記事で説明した内容をまとめると以下のとおりです。

“まとめ”

・サービス残業の黙認とは、労働者が残業していることを見て見ぬふりをしていることをいいます。

・サービス残業の黙認は、違法となります。

・上司によりサービス残業の黙認が生じる原因としては、以下の3つがあります。
原因1:残業申請をしにくい雰囲気
原因2:定時で帰らせないプレッシャー
原因3:終業時刻直前での業務指示

・サービス残業の黙認に該当する例は、以下のような場合です。
例1:残業があるタイムカードを承認しているケース
例2:終業時刻後も職場で業務をしているところを見ているケース
例3:メールやチャットで労働時間の報告を受けているケース
例4:遅くまで働いていることを称賛しているケース
例5:終業時刻後にメールでやり取りしているケース

・サービス残業を黙認されている場合の対処法としては、以下の4つです。
対処法1:弁護士に相談する
対処法2:残業と黙認の証拠を集める
対処法3:通知書を送付する
対処法4:労働審判又は訴訟を提起する

この記事が上司からサービス残業を黙認されていて困っている労働者の方の助けになれば幸いです。

以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

弁護士に相談することで、お悩みを解決できる場合があります

残業代の未払い、不当解雇、職場でのハラスメント…
一人で抱え込まず、その問題に対する経験が豊富な弁護士に相談してみませんか
「何から始めればいいかわからない」
「相談していいのかわからない」

そんな不安を持つ方も多いですが、弁護士があなたに寄り添い、最適な道筋を一緒に見つけます。
あなたが望む解決に近づけるためにも、まずはお気軽にご相談ください
信頼できる弁護士が、あなたの力になります。
勇気を出して、最初の一歩を踏み出してみませんか

弁護士に相談する

  • 神奈川

著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

記事一覧へ