労災隠しの罰則は罰金|労災隠しは犯罪です!誰が捕まる・なぜばれる

労災隠しの罰則は罰金|労災隠しは犯罪です!誰が捕まる・なぜばれる

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籾山 善臣

籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日


労災隠しをされてしまい罰則を科すことができないか知りたいと悩んでいませんか

会社のせいで負傷したり、病気になったりした場合に、真摯に対応してもらうことができなければ不満に感じるのは当然のことですよね。

労災隠しをした場合には、50万円以下の罰金が科される可能性があります

労災隠しは刑罰が定められている犯罪の1つなのです。

労災隠しについては、これを行った会社だけではなく、労災隠しに関与した方も処罰の対象となります。

労災隠しは、労働者本人からの通報で発覚することが多いですが、医療機関や第三者からの通報で発覚することもあります

労災隠しの罰則の公訴時効は3年です。

もし、労災隠しをされた場合には、あなた自身の権利を守るためにも適切な対処をしていく必要があります。

実は、会社は、労災の認定がされた場合、損害賠償請求や労災保険料が上がるリスクがあるため、労災の申請に非協力的であることも珍しくないのです

今回は、労災隠しの罰則について労災隠しは犯罪であることを説明したうえで、誰が捕まるか、なぜばれるのかなどを解説していきます。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、労災隠しが犯罪であり行ってはいけないこと、及び、その罰則についてよくわかるはずです。

1章 労災隠しの罰則|50万円以下の罰金

労災隠しの罰則

労災隠しをした場合には、50万円以下の罰金が科される可能性があります

労働安全衛生法と労働安全衛生規則では、以下のとおり定められているためです。

労働安全衛生法第120条
「次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。」
5「第100条第1項又は第3項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者」

労働安全衛生法第100条(報告等)
1「厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。」
3「労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。」

労働安全衛生規則第97条(労働者死傷病報告)
「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒(以下「労働災害等」という。)により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。」

つまり、労働者が仕事中に負った怪我などついて、必要な報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、50万円の罰則が科されるとの内容になっています

例えば、製造業の現場で、作業員が機械に手を挟まれ負傷したとします。本来であれば、会社はすみやかに労働基準監督署へ報告し、労災保険の手続きを取る必要があります。

ところが、会社が「会社の評価に響く」「労災件数を増やしたくない」という理由で報告をせず、「私的なケガだったことにしよう」と指示した場合、これは明確な労災隠しです。

こうしたケースでは、労働安全衛生法違反として、会社や担当者に罰金が科される可能性があります。

2章 労災隠しは犯罪です

労災隠しは犯罪です

労災隠しは、単なる社内ルール違反やモラルの問題ではなく、法的に「犯罪」として明確に位置づけられています

労働者の安全や健康にかかわる情報を意図的に隠したり、事実を偽って報告したりする行為は、社会的にも非常に悪質なものとされています。

本来、会社には労働者の命と健康を守る義務があります。労災が起きた場合、その事実を正確に報告することは、企業として当然の責任です。それを隠すということは、労働者の保護をないがしろにし、制度そのものを機能不全に陥らせる行為にほかなりません。

また、労災を隠すことで、労働者が本来受け取るべき治療費や休業補償、後遺障害への給付などが正当に支払われなくなる恐れがあります。これは労働者の生活を直接的に脅かす重大な問題です

さらに、労災隠しがまかり通る職場では、同様の事故が繰り返される危険もあります。再発防止策が取られず、安全意識の欠如した環境が固定化してしまうのです。

このように、労災隠しは、企業としての信頼を失うばかりか、社会的にも非難されるべき行為です。結果として、企業自身にとっても大きなリスクを生むことになります。

だからこそ、労災隠しは法律により「犯罪」とされ、刑事罰の対象とされているのです。

3章 労災隠しは誰が捕まる

労災隠しについては、雇用主である法人と労災隠しに関与した方の両方が処罰の対象となります

実際に誰が責任を問われるのかについては、関与の程度や立場に応じて異なります。

例えば、労災隠しの刑事罰の対象としては以下のとおりです。

・法人
・代表者や役員
・現場責任者や担当者

労災隠しは誰が捕まる

3-1 法人

労災隠しがあった場合には、雇用主となる法人が刑事罰の対象となる可能性があります

法人の従業員が労災隠しを行った場合には、その行為者だけではなく、法人に対しても、罰金刑が科されるとされているためです。

労働安全衛生法第122条
「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第百十六条、第百十七条、第百十九条又は第百二十条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。」

3-2 代表者や経営者

労災隠しがあった場合には、代表者や経営者も刑事罰の対象となる可能性があります

処罰の中心となるのは、労災の報告義務を負っていた「事業者」または「使用者」、つまり代表者や経営者だからです。

例えば、代表者や経営者が労災の発生を知りながら報告を指示しなかった場合、その人自身が罰せられる可能性があります。

3-3 現場責任者や担当者

労災隠しがあった場合には、現場責任者や担当者も刑事罰の対象となる可能性があります

例えば、報告書の改ざんを行ったり、従業員に「通勤中のケガだったことにしてほしい」などと指示したりした場合も、その行為者本人が処罰されるケースもあります。

労災隠しに積極的に加担したわけではなくても、上司からの指示に従い、形式的に書類の提出だけを行ったような場合でも、事情によっては責任を問われることがありますので注意しましょう。

つまり、労災隠しの責任は組織全体に及ぶ可能性があり、「上から言われたからやった」では済まされない重大な問題です

4章 労災隠しはなぜばれる

会社が労災隠しをしたとしても、簡単に発覚します

労災は、仕事中や通勤中の怪我や病気であり、医療機関での診療や、関係者の証言、現場の記録など多くの痕跡が残るためです。

そのため、どんなに隠そうとしても、ある日突然明るみに出ることが少なくありません。

例えば、労災隠しは、以下のようなルートで発覚することがよくあります。

・労働者自身からの通報
・医療機関からの通報
・第三者からの通報

労災隠しが発覚するルート

それでは、労災が発覚する状況について順番に説明していきます。

4-1 労働者自身からの通報

もっとも多いのが、被害を受けた労働者本人が、会社の対応に不信を抱き、自ら労働基準監督署へ通報するケースです。

最近では、インターネットやSNSで簡単に情報収集することが可能になったため、会社の圧力を受けても、自ら行動を起こす人が増えてきています

例えば、「通勤中にケガをしたのに健康保険で処理された」「業務中に大けがをしたのに、労災申請をするなと言われた」といった状況では、労働者自身が労基署に相談することが多くあります。

こうした通報がきっかけで、監督署が調査に乗り出し、隠されていた事実が明るみに出るのです。

労災隠しの告発については、以下の記事で詳しく解説しています。

4-2 医療機関からの通報

もう一つの代表的な経路が、病院や診療所といった医療機関からの通報です。

医療機関は、労災保険適用の可否について敏感であり、業務起因性があると診断すれば、当然労災手続を勧める立場にあるためです。

ここで不自然な対応があれば、通報に発展する可能性は十分あります

例えば、労働者が「業務中にケガをした」と申告しているのに、会社側が健康保険での診療を求めてきた場合、医師や事務方が不審に思い、労働基準監督署に連絡することがあります。

労災の医療費については、以下の記事で詳しく解説しています。

4-3 第三者からの通報

意外と見落とされがちですが、労働者本人や医療機関以外の第三者からの通報も珍しくありません。

会社内での事故については同僚などの目撃者がいますし、SNSでの発言などがきっかけとなって外部の目に触れ、通報へと発展することもあります。

同僚や元従業員、家族、さらには取引先の人などが、労働者のケガや体調悪化の経緯を聞き、「これはおかしい」と感じて労働基準監督署へ通報するケースもあります。

5章 労災隠しの罰則の時効

労災隠しに対する罰則にも「時効」があります。

公訴時効という制度が適用され、刑事責任を問える期間に制限があるためです。

具体的には、労災隠しの罰則の公訴時効は、3年です

刑事訴訟法第250条
2「時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。」
六「長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年

つまり、労災隠しが行われた日から3年が経過してしまうと、たとえ事実が発覚しても、原則として刑事罰を科すことはできなくなります

例えば、ある会社が2022年5月に起きた労災を隠していた場合、2025年5月までに公訴が提起されなければ、その件については罰金などの刑事処分を科すことはできなくなってしまう可能性があるということになります。

ただし、公訴時効が完成した場合であっても、民事上の損害賠償請求の消滅時効は完成していない場合があります。

そのため、労災隠しをされたと感じた場合は、できるだけ早期に相談や対応を行うことが重要です

会社側が時効を狙って「時間が経てばうやむやになる」と考えていることもありますので、逃げ得を許さないようにしましょう。

労災申請の時効については、以下の記事で詳しく解説しています。

6章 労災隠しへの対処法

もし、労災隠しをされた場合には、あなた自身の権利を守るためにも適切な対処をしていく必要があります。

会社側が労災を隠そうとしている以上、あなた自身が行動を起こさなければ、労災はなかったものと扱われてしまうリスクがあるためです

具体的には、労災隠しをされた場合には、以下の手順で対処していきましょう。

対処法1:弁護士に相談する
対処法2:提出書面や資料の準備
対処法3:労基署に提出する
対処法4:労基署の調査に協力する

労災隠しへの対処法4つ

それでは、これらの対処法について順番に説明していきます。

6-1 対処法1:弁護士に相談する

労災隠しへの対処法の1つ目は、弁護士に相談することです。

法的な見通しや手続について助言をしてもらうといいでしょう。

また、労災において適切な補償を受けるためには、ポイントを押さえたうえで、あなたに有利な事実を説得的に説明していくことが大切です。弁護士のサポートを受けながら手続きを進めるといいでしょう。

ただし、弁護士であれば誰でもいいというわけではなく、労働問題に注力していて、労災に実績のある弁護士を探すといいでしょう

6-2 対処法2:提出書面や資料の準備

労災隠しへの対処法の2つ目は、提出書面や資料の準備です。

労災の申請をするためには、厚生労働省のホームページなどで請求書をダウンロードして必要事項を記入する必要があります。

また、事業主や医師の証明を記載する欄などがありますので、協力を求めることになります。

事業主に協力してもらえない場合には、その経緯等を労基署に説明することになります

その他、あなたに有利な事情については、別紙にまとめたり、資料を添付したりして提出することになります。

6-3 対処法3:労基署に提出する

労災隠しへの対処法の3つ目は、労基署に提出することです。

管轄の労基署を調べたうえで、申請書等を一式提出することになります。

事前に労基署に電話してアポイントを取っておくとスムーズです。

6-4 対処法4:労基署の調査に協力する

労災隠しへの対処法の4つ目は、労基署の調査に協力することです。

労基署は労災の申請があったら、労災の認定をすることができるか調査を行うことになります。

会社に資料の提出を求めたり、関係者にヒアリングをしたり、専門家の意見を仰いだりします

労働者自身にもヒアリングに協力するようお願いされることがありますので、必要に応じて手続きに協力することになります。

7章 労災隠しの罰則でよくある疑問3つ

労災隠しの罰則でよくある疑問としては、以下の3つがあります。

Q1:労災隠しの通報先は警察ですか?
Q2:なぜ会社は労災を隠すのですか?
Q3:労災隠しの罰則が科されれば補償はもらえますか?

これらの疑問について順番に解消していきましょう。

7-1 Q1:労災隠しの通報先は警察ですか?

A.いいえ、労災隠しの通報先は基本的に労働基準監督署です

警察に通報しても、労働法に基づく取り締まり権限はないため、対応できません。

労働基準監督署は、労働基準法や労働安全衛生法に基づいて、企業の労働環境を監視・指導する役割を担っています。

労災の隠蔽や虚偽の報告が疑われる場合は、最寄りの労基署に相談・通報してください

匿名での通報も可能なので、不安がある場合でも安心して相談できます。

7-2 Q2:なぜ会社は労災を隠すのですか?

A.会社が労災を隠そうとする背景には、以下のような理由があります

理由1:労災保険料の上昇を避けたい
理由2:損害賠償請求を回避したい
理由3:「労災多発企業」として行政指導を受けたくない
理由4:社内の評価や信用を守りたい
理由5:自社の安全管理体制の問題を隠したい

しかし、こうした自己都合による隠蔽は法律に反するだけでなく、後々に発覚した場合には企業イメージや信頼性を大きく損なうことになります。

7-3 Q3:労災隠しの罰則が科されれば補償はもらえますか?

A.罰則が科されることと、労働者が補償を受けられるかどうかは、原則として別の問題です

労災保険による補償を受けるためには、労災の申請を行う必要があります。

会社が労災を認めなくても、労働者自身で労災の申請を行うことは可能ですので、自分で行動を起こすようにしましょう。

8章 労災に強い弁護士を探すなら労働弁護士コンパス

労災に強い弁護士を探したい場合には、是非、労働弁護士コンパスを活用ください

労働問題は非常に専門的な分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。

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9章 まとめ

以上のとおり、今回は、労災隠しの罰則について労災隠しは犯罪であることを説明したうえで、誰が捕まるか、なぜばれるのかなどを解説しました。

この記事の内容を簡単にまとめると以下のとおりです。

“まとめ”

・労災隠しをした場合には、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

・労災隠しは、単なる社内ルール違反やモラルの問題ではなく、法的に「犯罪」として明確に位置づけられています。

・労災隠しをした場合には、法人だけではなく、代表者や役員、現場責任者や担当者も刑事罰の対象となる可能性があります。

・労災隠しは、労働者本人からの通報で発覚することが多いですが、医療機関や第三者からの通報で発覚することもあります。

・労災隠しの罰則の公訴時効は、3年です。

・労災隠しをされた場合には、以下の手順で対処していきましょう。
対処法1:弁護士に相談する
対処法2:提出書面や資料の準備
対処法3:労基署に提出する
対処法4:労基署の調査に協力する

労災隠しをされてしまい罰則を科すことができないか知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。

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籾山 善臣

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リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

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