
2025年2月22日
不当解雇
休職は何ヶ月でクビになる?休職期間満了や繰り返しでの解雇と対処法
休職期間や手続をよく確認しないまま、長期にわたり休職を継続して、解雇を言い渡されてしまう事例が多くなっています。今回は、休職が解雇猶予の制度であることを説明したうえで、休職でクビになるケースや対処法を解説します。
2025/04/12
不当解雇
外資系企業で働いているものの人事担当者(HR)からPIPを発令されてしまい困っているとの悩みを抱えていませんか?
PIPを課されてしまうと退職のプロセスに乗せられてしまったのではないかと不安に感じてしまう方も多いですよね。仕事のモチベーションが上がらなくなってしまう方も少なくないでしょう。
外資のPIPとは、業務改善のプログラムのことです。performance improvement planの略となっており、「ピップ」と読んだり、「ピーアイピー」と呼んだりします。
PIPは、本来パフォーマンス不足の従業員を更生するために行われますが、昨今はリストラの口実にするために難癖をつける目的で行われているような事例も散見されます。
PIPを告げられた際には、会社に解雇するための材料を与えないように、焦らずに冷静に対処していく必要があります。
外資のPIPとパッケージには密接な関係性がありますが、PIPを課されたからと言って必ずしもパッケージを交渉できるわけではなく、このタイミングで交渉を持ち掛けることが悪手となることもあります。
実は、外資系企業が従業員を退職に追い込む手口は、日に日に狡猾になってきています。従業員が自身の権利を守るためには、外資の人事がどのようなやり方をしてくるのかを知っておく必要があります。
この記事をとおして、これまで私が多くのPIPに関する相談を受けてきた中で、外資系で働く従業員の方に是非知っておいていただきたいと感じた知識やノウハウを伝えていくことができれば幸いです。
今回は、外資のPIPとは何かを説明したうえで、PIPが行われるケースや判例を説明したうえで、対処法を解説していきます。
具体的には、以下の流れで説明していきます。
この記事を読めば、外資系企業からPIPを受けた場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。
目次
外資のPIPとは、業務改善のプログラムのことです。performance improvement planの略となっており、「ピップ」と読んだり、「ピーアイピー」と呼んだりします。
いきなり解雇するのではなくまずは改善指導を行うもので、日本の解雇規制の考え方にも沿っており、本来の趣旨で用いられる限りは、労働者にとっても望ましい制度です。
例えば、ある日、人事や上長からミーティングを設定されることになります(普段のOne on Oneミーティング中で言及されることもあります)。
そのミーティングでは、あなたのパフォーマンスが会社の期待に沿っていないことを伝えられることになります。
そして、PIPを開始したいと言われ、PIPの理由や目標や達成しなかった場合のペナルティが記載された書面へのサインを求められます。
通常、PIPの期間は2~3か月程度です。PIPが始まると、週に1回程度で定期的にミーティングを設定されフィードバックを行われることになります。
このようにPIPは、本来、会社も労力と時間をかけて、従業員のパフォーマンスの改善を目指すものであり、有用な制度です。
ただし、昨今は、退職させるための手段としてPIPを悪用する会社も増えてきました。
PIPは、本来パフォーマンス不足の従業員を更生するために行われます。
しかし、昨今はリストラの口実にするために難癖をつける目的で行われているような事例も散見されます。
以下では、「パフォーマンス不足」のケースと「リストラや退職させる口実」のケースをそれぞれ説明していきます。
それでは、これらについて順番に説明していきます。
まずは、本来通り、パフォーマンス不足の改善の目的で用いられるケースです。
この場合、会社側から、PIP発令の理由について、明確な説明をしてもらうことができます。
例えば、具体的に何月何日のどのような業務の行い方がなぜよくなかったの等につき複数の例示が挙げられるなどします。
業務の改善を求める前提として、どのような点に問題があったのかにつき認識を共有する必要があるためです。
また、課題についても、現実的に実現可能な課題が出されることになります。達成可能な目標を課さなければ意味がないためです。
次に、リストラや退職させる口実として用いられるケースで、悪用される場合です。
外資系企業では定期的に経営を合理化するために、ポジションをクローズしたり、人員を削減したりします。
もっとも、日本の法律では、整理解雇をするには、厳格な条件が必要であるため、パフォーマンス不足と言う別の理由を持ち出そうとするのです。
また、上司が嫌いな従業員を退職に追い込むためにPIPを用いてくることもあります。自分に反対する者や自分と異なる派閥の者を退職させようとすることがあるのです。
この場合、会社側から、PIP発令の理由について、不明確な説明や抽象的な説明しかされないことが多くなっています。
例えば、他の従業員とあまり上手くやれていないのではないか、最近の働きぶりが会社の期待に沿うものになっていない程度の説明しかされないこともあります。
パフォーマンス不足の事実がないため、客観的かつ具体的な説明を行うことができないのです。
また、PIPで出される目標についても過大なものになっているのが通常です。退職させることが目的で、目標を達成されたら困るためです。
外資のPIPについて判断した裁判例がいくつか出てきています。
裁判例を見ることで、裁判所がPIPのどのような点に着目して判断を行っているのかが分かります。
具体的には、外資のPIPの裁判例を2つ厳選して紹介すると以下のとおりです。
それでは、順番にこれらの裁判例について説明していきます。
【事案】
当該従業員は、世界的な経済・金融情報を提供する通信社で記者として勤務し、日本拠点のニュース編集や記事執筆を担当していました。
業務パフォーマンスの向上を目的に複数回のPIP(業務改善計画)に取り組みましたが、いずれも目標達成が不十分と評価されました。
その後、会社側から退職勧奨を受けるもこれを拒否し、能力不足と改善の見込みがないと判断され、最終的に解雇されました。
【結論】
解雇無効
【理由】
会社側は、雇用文化の多様性や個別の解雇事由を総合的に判断すべきと主張しましたが、自社の人事制度の特徴や被控訴人に求められる具体的な職務能力について十分に立証できていませんでした。
また、当該従業員は3回のPIP(業務改善計画)で課題をほぼ達成しており、会社側が当該従業員の職務能力を客観的に立証する証拠も不十分でした。
そのため、当該従業員の能力不足が労働契約の継続を困難にするほど重大であるとは認められませんでした。
【事案】
当該従業員は2018年に被告のマーケティング部門に採用され、デジタルマーケティング業務を担当していましたが、2019年9月から10月にかけて業務改善計画(PIP)が実施されました。
その計画の中で、会社側は当該従業員の業務効率や責任感、コミュニケーション能力の不足を指摘し、改善目標を設定しました。
しかし、会社側は当該従業員が目標を達成できなかったと評価し、退職勧奨を経た後、2020年3月に普通解雇を行いました。
【結論】
解雇無効
【理由】
会社側は当該従業員の業務改善を目的にPIPを実施しましたが、その指導や教育の具体性や十分性が認められませんでした。
また、当該従業員は管理職ではなく、入社後の期間も短かったため、能力不足が解雇の重大な理由とされるには至らないと判断されました。
PIPを告げられた際には、会社に解雇するための材料を与えないように、焦らずに冷静に対処していく必要があります。
外資系企業は、従業員を退職させるまでのプロセスを確立していることが多く、会社から言われるままに対応していては、状況は不利になっていってしまいます。
具体的には、外資系企業からPIPを言い渡された場合には、以下の方法で対処していきましょう。
それでは、これらの対処法について順番に説明していきます。
外資からPIPを言い渡された場合の対処法の1つ目は、弁護士に相談することです。
PIPへの対応については、解雇まで見据えたうえで、不利にならないように立ち回る必要があります。
会社側はあなたを解雇するための証拠を集めていることも多いため、同様に労働者も解雇されないための証拠を集める必要があります。
そのため、弁護士に相談したうえで、対応や集めるべき証拠について助言をもらうべきなのです。
ただし、PIPに関する相談は労働問題の中でもとくに専門的であり、また、紛争になる前の段階であるため多くの法律事務所では無料相談の対象外であるのが通常です。
外資系企業の労働問題に精通している弁護士を探したうえで、有料相談でPIPに関する相談をできないか確認してみるといいでしょう。
外資からPIPを言い渡された場合の対処法の2つ目は、安易にサインしないことです。
PIPに関する書面には、PIPを発令する理由として、あなたのパフォーマンスが不足していると会社側が考えている理由が記載されているのが通常です。
しかし、そこに記載された事実については、あくまでも会社側の認識に過ぎず、あなたの認識とは異なる部分もあるでしょう。
このような場合に、あなたが何も言わずにサインをしてしまえば、会社側は労働者自身も、パフォーマンスが不足していることに納得したうえでサインしたと主張してきます。
また、PIPに関する書面には、過大な目標が記載されていることが多くなっています。
しかし、あなたが書面にサインをしてしまえば、その後に目標が過大であったと主張しても、会社からは何も異論を述べずサインをしたではないか等の反論をされます。
そのため、PIPに安易にサインをしてしまうと、あなたのパフォーマンスが不足していた証拠や目標が適正であった証拠とされることもあるため、注意が必要なのです。
ただし、明確にPIPを拒否する等の発言まではする必要はないでしょう。内容が適正なものになれば、労働者としても改善に協力すべきだからです。
外資からPIPを言い渡された場合の対処法の3つ目は、事実や目標のすり合わせを行うことです。
PIPに記載された事実が認識と違ったり、目標が過大であったりする場合には、サインする前に会社側に対して認識のすり合わせをお願いしましょう。
業務を改善していくためにも、まずは前提となる事実や目指すべき目標について共通の認識を構築する必要があるためです。
具体的に、PIPの発令された理由となる事実に関して、あなたの認識と異なる部分を指摘したうえで確認していきましょう。
もし、会社側から具体的な説明がされていない場合には、いつどこでどのような業務をしていた際のどのような言動等を根拠としているのか明らかにしてもらいましょう。
また、目標が過大である場合には、なぜその目標が過大と言えるのかを会社に対して説明していくことになります。
外資からPIPを言い渡された場合の対処法の4つ目は、改善の意欲がないと言われないようにすることです。
PIPへのサインを拒むと、会社側は、労働者に改善の意欲がなかったとして、解雇するための証拠としてくることがあります。
もし、本当に労働者のパフォーマンスが不足していたのであれば、業務の改善に努めるべきです。
そのため、労働者としても、至らない点があったのであれば改善する意思がある旨は示しておくべきでしょう。
外資のPIPとパッケージには密接な関係性がありますが、PIPを課されたからと言って必ずしもパッケージを交渉できるわけではありません。
PIP期間中は、あくまでも改善を目指す期間であるため、会社としても、結果が見えてくるまでは、通常、退職勧奨を行ってこないためです。
会社は、PIP期間が満了した段階で、PIPの結果を踏まえて、雇用を継続することが難しいと判断した場合には、退職勧奨を行ってくることが多くなっています。
その際には、会社側から退職パッケージの提示がされることがあります。
PIPをして解雇をするだけの十分な理由があると会社が判断するとパッケージ金額は低くなりがちです。解雇が有効になれば金銭を払わず退職してもらえるためです。
一方で、PIPの結果からは、改善が見られ解雇は難しいものの、会社としては雇用を継続することに消極的であるという場合には、パッケージ金額も大きくなりがちです。無理矢理解雇すると紛争になり、会社は高額の支払いを命じられるリスクがあるためです。
ただし、会社によっては、PIPを発令する段階で、PIPにチャレンジするか、パッケージを受け入れて退職するかどちらかを選ぶように迫ってくることがあります。
この段階で会社から提示されるパッケージは、PIP期間の給与相当額とされる傾向にあります。
例えば、3か月のPIPを提示されている場合には、退職するならPIP期間中の3か月分の給与を特別退職金として交付するなどと提示されるのです。
このタイミングでは、労働者がパッケージ金額の交渉を行ってもあまり大きな金額にはならない傾向にあります。
会社は、労働者が提示しているパッケージでの退職に応じない場合には、パッケージを増額せずにPIPを進めるという対応をとることが多いためです。
外資系のPIPについて、よくある疑問としては以下の4つがあります。
それでは、これらの疑問について順番に解消していきましょう。
A.PIPが違法なパワーハラスメントに当たるような場合には、慰謝料を請求できる可能性があります。
精神的な攻撃や過大な要求は職場におけるパワーハラスメントに該当するためです。
ただし、PIP自体が違法であるとの主張立証を行うことは容易ではなく、慰謝料が認められる場合でも高額にはならい可能性が高いでしょう。
A.PIPが人格権を侵害するものである場合には、PIPをやめるよう差し止めを請求できる可能性があります。
ただし、会社も改善の必要性に関し何らかの主張立証を行ってきますので、PIP自体が人格権を侵害するものであるとの主張立証まで行うことは、容易ではありません。
前掲華為技術日本事件も、解雇の無効までは認めていますが、PIPの実施自体には合理的な理由があり、不当な動機は窺われず、不当な態様であった証拠もないとして、今後PIPをすることの差し止めまでは認めていません。
A.PIPが未達になると、降格、退職勧奨、解雇に進むことが多くなっています。
通常、PIPが終わった際に、会社側から結果が告げられることになります。
無事に達成できていれば問題ありませんが、未達の場合には、退職するように勧められることが多いです。
もし、退職を断る場合には、降格して別のポジションにすると告げられたり、解雇すると告げられたりすることもあります。
A.PIPを拒否し続けても、会社側は、一方的にPIPを実施することが多くなっています。
PIPを実施するにあたり、労働者の同意は、必ずしも必要ではないためです。
ただし、会社によっては、PIPに入らずに退職勧奨をしてきたり、解雇をしてきたりすることもあります。
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以上のとおり、今回は、外資のPIPとは何かを説明したうえで、PIPが行われるケースや判例を説明したうえで、対処法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
この記事が人事担当者(HR)からPIPを発令されてしまい困っている外資系企業の従業員の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
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