パワハラでうつ病になった場合の対処法3つ!労災認定と慰謝料の請求

パワハラでうつ病になった場合の対処法3つ!労災認定と慰謝料の請求

著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

悩み

パワハラでうつ病になってしまい、どう行動すべきか悩んでいませんか

うつ病になるまで追い詰められると、働き続けるのも苦しくなり生活していけるのか不安になりますよね。

結論としては、パワハラでうつ病を発症した場合、労災保険給付の申請をしたうえで慰謝料を請求していくことが大切です

なぜなら、労災給付や慰謝料は、就労が困難な時期において生活を守る重要な財産となるためです。

しかし、これらが認められるには、パワハラの事実やうつ病との関係を証拠によって立証しなければいけません。

つまり、パワハラの証拠が不十分ですと、パワハラ行為が正当に評価されず、労災認定を受けられない又は慰謝料が低額となる可能性があるのです。

実は、パワハラが原因でうつ病を発症したものの泣き寝入りとなってしまう方の多くは、パワハラの証拠が集められていないというのが実情です

この記事をとおして、パワハラが原因でうつ病になってしまった場合に必要な知識を提供することができれば幸いです。

今回は、パワハラでうつ病を発症した場合の対処法を説明したうえで、パワハラによるうつ病と傷害罪の関係についても解説していきます。

具体的には、以下の流れで解説していきます。

この記事でわかること

この記事を読めば、パワハラでうつ病になってしまった場合にどう行動すべきかよくわかるはずです。

1章 パワハラでうつ病を発症した場合の対処法3つ

パワハラでうつ病になった場合、就労が困難となることも少なくないため、生活を守るための対処法を押さえておくといいでしょう

具体的には、パワハラでうつ病を発症した場合の対処法3つを整理すると以下のとおりです。

対処法1:労災保険給付を申請する
対処法2:慰謝料を請求する
対処法3:弁護士に相談する

それでは、これらの対処法について順番に説明していきます。

1-1 対処法1:労災保険給付を申請する

パワハラでうつ病を発症した場合の対処法1つ目は、労災保険給付を申請することです

パワハラでうつ病となった場合、労災保険給付が認められる可能性があるため、ポイントを押さえた請求をすることが大切です。

具体的には、パワハラにおける労災保険給付のポイント5つを整理すると以下のとおりです。

ポイント1:労災該当性|労災認定基準3つ
ポイント2:パワハラによるうつ病の悪化と労災認定
ポイント3:給付内容・金額
ポイント4:時効
ポイント5:証拠の重要性

それでは、労災保険給付について順番に説明していきます。

1-1-1 労災保険給付1:労災該当性|労災認定基準3つ

パワハラにおける労災保険給付のポイント1つ目は、労災の該当性です

労災保険給付が認められるには、うつ病が労災に該当する必要があります。

具体的には、パワハラによるうつ病の労災認定基準は以下のとおりです。

パワハラによるうつ病の労災認定基準
(出典:厚生労働省‐心理的負荷による精神障害の認定基準について
厚生労働省‐業務による心理的負荷評価表

1-1-2 労災保険給付2:うつ病の悪化と労災認定

パワハラにおける労災保険給付のポイント2つ目は、うつ病の悪化と労災認定の関係です

うつ病を既に発症していた場合、パワハラ後にうつ病が悪化しても、業務起因性が否定されてしまうこともあります。

そのため、どのような場合に労災認定してもらえるのか、具体的な条件を押さえておくといいでしょう。

具体的には、うつ病の悪化に業務起因性が認められる可能性がある場合2つを整理すると以下のとおりです。

うつ病の悪化と業務起因性

パワハラに関連する特別な出来事には、例えば以下の3つがあります。

・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病
気やケガをした
・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた
・発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の時間外労働を行った

1-1-3 労災保険給付3:給付内容・金額

パワハラにおける労災保険給付のポイント3つ目は、給付内容と金額です

うつ病が労災認定された場合、受給可能な給付3つとその金額を整理すると以下のとおりです。

労災保険給付の内容と金額
(出典:厚生労働省‐神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について
厚生労働省‐労災保険給付等一覧

各障害等級に該当する例を整理すると以下のとおりです。

9級の例
・「対人業務につけないもの」
・「出勤することはできるが、家族等が促さなければ始業時刻に送れることが常態的である場合」

12級の例
・「職種制限は認められないが、就労に当たりかなりの配慮が必要であるもの」

14級の例
・「職種制限は認められないが、就労に当たり多少の配慮が必要であるもの」
・「通常は出勤時間に遅れることなく自発的に出勤できるが、時には遅れることがある場合」

1-1-4 労災保険給付4:時効

パワハラにおける労災保険給付のポイント4つ目は、時効です

労災保険給付には、種類ごとに請求期限があり、期限を過ぎると時効により消滅します。

具体的には、労災保険給付の時効期間を整理すると以下のとおりです。

・休業補償給付(賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年)
・療養補償給付(療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年)
・障害補償給付(傷病が治癒した日の翌日から5年)

(出典:厚生労働省‐労災保険の各種給付の請求はいつまでできますか。

1-1-5 労災保険給付5:証拠の重要性

パワハラにおける労災保険給付のポイント5つ目は、証拠の重要性です

労災認定は、労働基準監督署が書類確認や聞き取り調査を経た上で行われることになります

そのため、労災認定がされるには、「うつ病がどのような経緯で発症したのか」「うつ病がどの程度のものなのか」がわかる証拠が重要となるのです。

例えば、パワハラでうつ病になった場合の労災認定上重要な証拠7つを簡単に整理すると以下のとおりです。

①会話の録音
②メールやSNS記載の文章
③被害状況のメモ
④診断書や担当医の意見書
⑤家族や同僚との相談内容
⑥他の被害者の証言
⑦加害者の謝罪文

~労災保険給付と傷病手当の併給はできる?~

労災保険給付と傷病手当は、同時にもらうことはできません。

なぜなら、これらの補償は、補償の対象が異なるためです。

具体的には、労災保険給付は業務中の病気等が対象なのに対し、傷病手当は業務外の病気等を対象としています。

そのため、いずれも利用が可能な場合には、支給金額等の違いから判断する必要があります。

1-2 対処法2:慰謝料を請求する

パワハラでうつ病を発症した場合の対処法3つ目は、慰謝料を請求することです

パワハラ後にうつ病を発症した場合、加害者または会社に対して慰謝料を請求できる可能性があります。

パワハラにおける慰謝料請求のポイント5つを整理すると以下のとおりです。

ポイント1:パワハラ該当性|パワハラの3要件
ポイント2:会社の責任を追及する方法
ポイント3:慰謝料相場|5万~200万円程度
ポイント4:時効
ポイント5:証拠の重要性

それでは、慰謝料請求について順番に説明していきます。

1-2-1 慰謝料1:パワハラ該当性|パワハラの3要件

パワハラにおける慰謝料請求のポイント1つ目は、パワハラの該当性です

慰謝料請求が認められるには、受けた行為がパワハラに該当する必要があります。

具体的には、パワハラの要件3つを整理すると以下のとおりです。

①優越的な関係に基づいて行われること
②業務の適正な範囲を超えて行われること
③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

(引用:厚生労働省‐パワーハラスメントの定義について

厚生労働省は、パワハラに該当する典型例として、次のような6類型を挙げています。

・精神的な攻撃(人格否定にあたる発言など)
・身体的な攻撃(殴打、足蹴りなど)
・過大な要求(勤務に関係のない過酷な作業の命令など)
・過小な要求(誰でも遂行可能な業務の命令など)
・人間関係からの切り離し(別室への隔離など)
・個の侵害(プライバシーなどの人格権侵害)

(出典:厚生労働省‐パワハラ 6類型

慰謝料請求したいと感じたら、まずはパワハラ行為に該当するのか確認しておくといいでしょう。

1-2-2 慰謝料2:責任を追及する方法

パワハラにおける慰謝料請求のポイント2つ目は、責任を追及する方法です

パワハラでうつ病を発症した場合の責任追及方法4つを簡単に整理すると以下のとおりです。

パワハラでうつ病を発症した場合の責任追及方法4つ

労働局に相談した場合、助言や指導が行われることもありますが、法的効力がないため解決に至らないこともあります

労働審判は、会社と従業員の紛争を解決する手続きであるため、パワハラの加害者に直接請求できないので、会社に請求する場合に用いることになります。

他方で、裁判にはそのような制限はなく、誰に対しても損害賠償請求することができます

なお、生命や身体への危険度が高い場合には、警察に相談して安全を確保することも考えられます。

パワハラを訴える方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

1-2-3 慰謝料3:慰謝料相場|5万~200万円程度

パワハラにおける慰謝料請求のポイント3つ目は、慰謝料相場です

パワハラの慰謝料相場は、5万~200万円程度になることが多いとされています。

金額の幅が広いのは、パワハラの態様や被害の程度が事案によって大きく異なるためです。

しかし、慰謝料請求の方法によって獲得可能な金額も変わってくるため、目的に応じた手続きを選択することが重要です

労働局に相談した場合、あっせん手続きで慰謝料について合意できる場合もありますが、解決の早さに重点を置いた手続であるため、金額は低くなりやすいです。

他方で、労働審判や裁判ではパワハラ行為を正確に評価しやすいため、慰謝料金額もあっせん手続と比較して高額になりやすいです。

パワハラの慰謝料相場については、以下の記事で詳しく解説しています。

1-2-4 慰謝料4:時効

パワハラにおける慰謝料請求のポイント4つ目は、時効です

パワハラによる慰謝料請求には時効があり、請求の根拠によって変わってきます。

パワハラによる慰謝料請求の時効

そのため、パワハラを理由とする慰謝料請求をしたい場合には、時効期間が経過していないか確認しておくといいでしょう。

1-2-5 慰謝料5:証拠の重要性

パワハラにおける慰謝料請求のポイント5つ目は、証拠の重要性です

パワハラが行われるのは会社内であるため、具体的な状況を外から知ることはできません。

そのため、慰謝料請求においては、実際の状況を証明するための証拠が獲得金額に大きくかかわってくるのです

そのため、慰謝料請求を考えている場合には、早い段階から以下の証拠を集めておくといいでしょう。

①会話の録音
②メールやSNS記載の文章
③被害状況のメモ
④診断書や担当医の意見書
⑤家族や同僚との相談内容
⑥他の被害者の証言
⑦加害者の謝罪文

1-3 対処法3:弁護士に相談する

パワハラでうつ病を発症した場合の対処法3つ目は、弁護士に相談することです

パワハラを理由とする慰謝料請求には法的な判断が必要となるため、具体的な見通しを立てるには専門的な知識や経験が重要となります。

とくにうつ病を発症している場合には、被害の程度を適切に評価してもらうためにも、事前の適切な準備は欠かせません

そのため、パワハラを理由とする慰謝料請求をしたいと感じたら、弁護士に相談してみるといいでしょう。

2章 パワハラによるうつ病と傷害罪

パワハラ行為は、その態様次第では犯罪になることもあります

傷害罪における傷害とは、生理的機能を障害することをいいます。

例えば、加害者が被害者を執拗に殴打し、重傷を負わせた場合には傷害罪に該当する可能性があります。

しかし、罵倒等の無形的方法によりうつ病を発症した場合には、殴打した場合と異なり、傷害の故意が必要となります

つまり、傷害罪が成立するには、罵倒によって被害者が精神障害に陥れることを意図し、又は精神障害になっても構わないと考えている必要があるのです。

3章 パワハラに強い弁護士を探すなら弁護士コンパス

パワハラに強い弁護士を探したい場合には、是非、労働弁護士コンパスを活用ください

労働問題は非常に専門的な分野であり、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。

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4章 まとめ

以上のとおり、パワハラでうつ病を発症した場合の対処法を説明したうえで、パワハラによるうつ病と傷害罪の関係についても解説しました。

この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。

まとめ

・パワハラでうつ病を発症した場合の対処法3つを整理すると以下のとおりです。
対処法1:労災保険給付を申請する
対処法2:慰謝料を請求する
対処法3:弁護士に相談する

・労災保険給付申請のポイント5つを整理すると以下のとおりです。
ポイント1:労災該当性|労災認定基準3つ
ポイント2:パワハラによるうつ病の悪化と労災認定
ポイント3:給付内容・金額
ポイント4:時効
ポイント5:証拠の重要性

・慰謝料請求のポイント5つを整理すると以下のとおりです。
ポイント1:パワハラ該当性|パワハラの3要件
ポイント2:会社の責任を追及する方法
ポイント3:慰謝料相場|5万~200万円程度
ポイント4:時効
ポイント5:証拠の重要性

・パワハラによるうつ病を発症した場合、精神障害であることから、傷害罪が成立するには傷害の故意が必要となります。

この記事が、パワハラでうつ病になった場合にどう行動すべきか悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

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