インタビュー|白土文也弁護士 しらと総合法律事務所
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旧司法試験合格後、ITベンチャー企業勤務、都内法律事務所、中国・上海での経験を経て2014年に独立した白土文也弁護士。相続では紛争が起きる前の予防を重視し、「ストレスのない相続」を目指しています。本インタビューでは、弁護士を志した原点、相続・認知症対策への思い、事務所づくりについて、お話をお伺いしました。
——弁護士を目指すきっかけは、小学生の頃に司法試験を知ったことだったそうですね。
そうです。最初から「弁護士になりたい」と強く思っていたというより、小学生の頃に司法試験という非常に難しい試験があることを知って、「受けてみたい」と思ったのが始まりでした。
茨城県の公立の小中学校に通っていましたが、勉強をするとクラスや学年で上位に入ることができて、その達成感が好きだったのだと思います。振り返ると、簡単な試験だったら挑戦していなかったかもしれません。難しかったからこそやってみたかった。最終的に32歳で旧司法試験に合格しました。
——旧司法試験に合格した後、すぐに弁護士の道へ進まず、ITベンチャー企業へ入ったのはなぜでしょうか。
司法試験の勉強をしていた頃は、ライブドアが企業買収で話題になり、同世代の若い経営者がITベンチャーの世界で活躍していました。私自身も20代の頃から経営に興味があって、雑誌やビジネス書をよく読んでいました。
司法試験には合格したかったのですが、当時は本気で「合格したら、弁護士をやっている場合ではない。企業家になりたい」と思っていたんです。周囲に「立ち上がったばかりのITベンチャーで働けるところはないか」と聞いて回り、紹介してもらった会社に入りました。
——その会社では、どのような仕事をしていたのですか。
入ったときはまだ売上がなく、私は従業員1人目でした。法務担当として入ったわけではありません。飛び込み営業をしたり、パーテーションをただでもらってきてオフィスをつくったり、事業を一から立ち上げるところから関わりました。
——そのベンチャー企業での経験は、現在の法律事務所経営にも生きていますか。
かなり生きていると思います。私は「忙しくなったから人を増やす」という考え方ではなく、いつまでに何人の組織にしたいのか、売上をどうしたいのか、どんなサービスを提供したいのか、いつ次のオフィスを出したいのかという目標から逆算して、人を採用したり投資をしたりしています。
もちろん赤字より黒字の方がよいですし、開業以来、経営としては黒字を維持しています。ただ、目先の利益だけを見るのではなく、中長期的に必要な投資をする。その考え方のベースには、最初にベンチャー企業で働いた経験があると思います。
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——都内の法律事務所で経験を積んだ後、中国・上海へ行くことになった経緯を教えてください。
もともと中国に行きたいと思っていたわけではありません。ただ、人生の中で一度は海外で働いてみたいとは思っていました。40歳を過ぎていたので、もうそういう機会はないかなと思っていた時期でした。
前の事務所で「そろそろ独立したい」と話したところ、ボスから「上海の法律事務所が日本人弁護士を求めている。行ってみないか」と言われたんです。お昼頃に聞いた話だったと思いますが、夕方には「行きます」と返事をしていました。
——当時、中国語は話せたのでしょうか。
まったく話せませんでした。実際に行くまで半年ほどあったので独学で勉強し、事務所の中国語ができる方にランチの時間を使って教えてもらいました。それでも現地へ行った当初は、挨拶ができる程度で、会話はほとんどできませんでした。
上海では日本人がほとんどいない環境で暮らし、事務所でも街でも中国語に囲まれていました。1年少しの滞在でしたが、最後の頃には一人で飲みに行って会話をして帰ってこられるくらいにはなりました。環境に入ってしまえば、人間は何とかするものだなと思います。
——現在も、中国と関係する案件を扱うことはありますか。
時々あります。最近では、日本で亡くなった方が中国の銀行に預金を持っていて、日本で作成した遺言書について、中国側で手続きを進めるために、日本法上の意味や効力を説明する意見書を書いたことがあります。
以前に担当した中国企業の日本企業に対する訴訟をきっかけに、今も債権回収を続けている案件もあります。上海で勤務していた事務所を通じて、日本が関わる案件が年に1、2件ほど来ることがあります。
——2014年に事務所を開設したとき、どのような法律事務所にしたいと考えていましたか。
最初から、相続と中小企業法務をやりたいと思っていました。そして、今も変わらず大切にしているのが、予防に力を入れることです。弁護士なので紛争解決もしますが、私は紛争そのものが好きなわけではありません。争いになる前に防げるのであれば、その方がよいと思っています。
——その中でも、相続に特に力を入れようと思ったのはなぜでしょうか。
個人の法律問題の中で、「事前に予防できる分野は何だろう」と考えたとき、相続にはいろいろな手法があります。典型的には遺言書がありますし、家族信託や任意後見などもあります。ほかの分野と比べても、相続は事前に設計できることが多いと感じています。
実際には遺産分割や遺留分など、紛争になった後のご相談も多く受けています。ただ、本当はもっと生前対策を広げたいという思いがあります。税理士法人から声をかけていただき、生前対策をテーマにセミナーでお話しすることもあります。
——相続専門サイトで掲げている「ストレスのない相続をすべての人へ」という言葉には、どのような思いがありますか。
日々ご相談を受けていると、「相続はストレスだらけだな」と感じます。多くの方にとって相続は何度も経験するものではありません。初めて相続が発生したのに知識はなく、3か月や10か月といった期限があり、親の財産の内容も分からないので一から調べなければならない。ご自身の仕事や家庭もある中で進めなければなりません。
さらに、相談しようと思っても、弁護士、司法書士、税理士など、誰に何を相談したらよいのか分からない。そこに家族間の紛争まで重なると、負担は非常に大きくなります。
私たちの事務所に来ていただければ、必要に応じて税理士や司法書士、不動産の専門家をご紹介し、一緒にチームを組むこともできます。難しい手続や紛争を任せていただくことで、少しでも悩みから解放したい。そして、できることなら、生前に対策をして、そもそも大きなストレスを抱えない相続にしたいと思っています。
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——生前の相続対策は、どのくらいのタイミングで相談するのがよいのでしょうか。
あまりに早いと、その後に財産構成が大きく変わるので、現実的ではない場合もあります。一方で、80代後半になってからご相談に来られる方も多く、認知症ではなくても、難しい話を長時間理解すること自体が負担になっていることがあります。
人によって違いますが、70代から80代前半くらいまでの、まだ意欲や体力があり、財産の分け方や生前の管理について一緒に考えられる時期に来ていただけると、選択肢を検討しやすいと思います。60代から対策を始め、遠方からオンラインで打ち合わせを続けている方もいます。
——特に、早めに対策を考えた方がよいご家庭はありますか。
分かりやすいのは、お子さんがいないご夫婦です。配偶者に財産をすべて残したいと思っていても、遺言書がなければ、配偶者だけで手続を完結できず、きょうだいなどと遺産分割をしなければならない場合があります。実際に、相続が発生してから「きょうだいが協力的ではない」と悩んで来られる方もいます。
内縁関係の方も、相続上の立場を考えると生前の準備が重要です。何も対策をしていないために、亡くなった後で「何もできない」と悩まれる方もいます。
また、不動産賃貸業をしている方や会社を経営して株式を持っている方は、事業を誰にどう引き継ぐかが相続後の経営に直結します。税務も絡みますので、後継者がいるのであれば、早い段階から設計を始めた方がよいと思います。
——遺言書以外には、どのような生前対策がありますか。
一つが家族信託です。家族の中で信託契約を結び、例えば親が子に財産を託して、契約で定めた目的やルールに従って管理してもらいます。適切に設計すれば、親の判断能力が低下した後も、受託者が信託財産を管理できる仕組みをつくれます。
ただし、家族信託は万能ではありません。仕組みが複雑ですし、受託者による濫用のリスクや税務上の検討も必要です。そもそも家族信託を使わず、遺言書や任意後見の組み合わせの方がよいケースも多くあります。
——そこから、弁護士を目指したきっかけを教えてください。
最初から「家族信託を使う」と決めて進めるのではなく、家族関係や財産構成を伺い、本当に必要かどうかを考えるところから始めます。必要であればスキームを組み、契約書を作成し、公証役場や銀行とも調整します。信託口口座を作る場合には、銀行とのすり合わせも必要です。
さらに、税務上の落とし穴がないか税理士に確認し、信託登記については司法書士にも確認します。家族信託は一つの専門家だけで完結するものではなく、税務や登記まで含めて組み立てていく必要があります。
——認知症への備えに関する相談も増えていますか。
事務所では増えています。ただ、相談に来られるタイミングが遅いと感じることが少なくありません。「認知症になってしまったので、今から対策したい」とお子さんから連絡をいただくこともありますし、判断能力が日々低下していることが見て取れるような、ぎりぎりの段階でご相談に来られることもあります。
認知症対策というと少し分かりにくいかもしれませんが、要するに、将来自分で財産を管理できなくなったときに家族が困らないよう、財産管理の仕組みを事前につくっておくことです。任意後見、家族信託、見守り契約など、状況に応じて選択肢を考えていきます。
——相続では、長年の家族関係や感情のもつれが表面化することがあります。案件を進めるうえで意識していることはありますか。
まずはご依頼者様のご希望がベースです。「できるだけ円満に進めたい」というご希望であれば、その方向で進めますし、話し合いが難しければ調停や訴訟も検討します。
そのうえで、相手方にも相手方の思いがあるということは意識しています。同じ家族の出来事でも、立場によって見え方は違います。相手方も大切な親やきょうだいを亡くしているわけですから、いたずらに紛争を大きくすることはしません。
——白土先生にとって、相続紛争の「解決」とは何でしょうか。
相続の紛争を抱えている方は、仕事やご自身の家庭があるのに、ずっと争いのことが頭から離れなくなることがあります。私は、その時間がとてももったいないと思っています。
もちろん、ご依頼者様の権利を守ることは大前提です。そのうえで、必要以上に相手を刺激して紛争を拡大させるのではなく、できるだけ早く紛争から解放し、もっと大切なことのために時間を使っていただきたい。そのために何ができるかを考えています。
——不動産が相続財産の大部分を占める場合、どのような難しさがありますか。
不動産の割合が大きい相続は、解決が難しくなりやすいです。売却すればお金にして分けられますが、そこに長く住んでいて「このまま住み続けたい」という方もいます。その場合、ほかの相続人に支払う代償金を自分の資金から用意しなければならず、それが難しいこともあります。
反対に、地方の不動産では、価値が低くて誰も取得したくないために、相続人同士で押し付け合いになることもあります。売却が難しい土地でも、近隣の方が低い価格なら取得してくれることがあります。相続が発生してから争いながら処理するより、可能であれば親世代のうちに整理を始めておく方が、時間をかけて選択肢を探せます。
——被相続人の預金の使途不明金が問題になる場合、どのように事実関係を調べますか。
まず預金履歴を取り、お金の動きを見ます。いつ、いくら引き出されているのか、その時期に被相続人の判断能力がどうだったのかを確認します。必要に応じて、相手方に何に使ったのかを尋ねます。
履歴からATMの場所が分かることもあります。そのATMが誰の生活圏に近いかなど、一つ一つ事実を積み上げながら、交渉や調停の中で整理していきます。
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——相続案件では、税理士や司法書士などとの連携をどのように行っていますか。
相続のご紹介は、税理士や司法書士からいただくことがとても多いです。逆に、事務所で直接お受けした案件でも、税務や登記を常に意識しますので、必要に応じて税理士や司法書士と一緒に進めています。
事務所では週1回を目安に勉強会を行っていて、毎回外部の弁護士、司法書士、税理士が参加しています。ちょうど最近も、信託登記をテーマに勉強会をしました。相続は税務、登記、不動産などが絡むので、他士業との交流や連携はかなり多いと思います。
——専門家がチームで動くことが特に生きた案件はありますか。
不動産の権利関係が複雑な相続では、税理士、司法書士、不動産の専門家などと一緒に検討し、財産の分け方を組み立てて相手方へ提案することがあります。文章だけで見るとシンプルですが、実際にはかなり手間と時間をかけて検討し、最終的に双方が納得できる形にまとめていきます。
弁護士だけで「法律上はこうです」と言うだけでは解決しない場面があります。税金、登記、売却の実務まで見据えて提案できることが、チームで対応する大きな意味だと思います。
——事業承継でも、相続の一環としてM&Aを扱うことがあるそうですね。
あります。以前、従業員が20名ほどいる利益の出ている会社の経営者から、「後継者がいないので会社を解散したい」という相談を受けました。お子さんや配偶者がおらず、身近な親族も高齢で、誰も事業を継げないという状況でした。
会社の状態を見ると、解散するよりM&Aで引き継いでもらう方がよいのではないかと考え、顧問契約を結んで4、5年ほど毎月打ち合わせを重ねました。最終的には仲介会社にも入ってもらい、より大きな会社へ売却することができました。
経営者の方には売却代金が入り、従業員の雇用も守られました。後から聞くと、従業員の皆さんは以前より高い給与で働いているそうです。社長にもとても喜んでいただき、今も個人の顧問契約を続けてくださっています。こういう仕事は、「相続」や「遺産分割」という枠だけでは捉えられない事業承継の支援だと思っています。
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——好きな言葉を教えてください。
最近はあまり口にしていませんが、学生の頃から心に残っているのは「道はない。歩くところが道になる」という言葉です。
振り返ると、司法試験もそうですし、ベンチャー企業へ行ったことも、40代で中国へ行ったことも、最初から道が用意されていたわけではありません。そういう意味では、自分の生き方に合っている言葉なのかもしれません。
——休日や仕事の前は、どのようにリフレッシュしていますか。
本を読んだり、ポッドキャストを聴いたりすることが多いです。テーマはほとんど歴史か経営ですね。経営者の話を聴くのも好きですし、経営戦略の本を読むのも好きです。歴史では戦国武将の話などが好きです。
朝にウォーキングをしながらポッドキャストを聴く時間も好きです。あとは、事務所のメンバーや他士業の方と話すことも好きで、弁護士や事務局のメンバーと一対一で食事に行くこともあります。若いメンバーと話すのは楽しいですね。
——今後、相続分野で特に広げていきたいことはありますか。
相続は、これからももっと広げていきたいです。特に、生前対策は、開業したときに思い描いていたところまでまだ届いていません。弁護士にはどうしても「紛争が起きてから相談する」というイメージがあるので、争いになる前にできることを、もっと知っていただきたいと思っています。
——最後に、相続について「まだ揉めていないから弁護士に相談するほどではない」と迷っている方へ、メッセージをお願いします。
相続対策や、将来判断能力が低下したときの財産管理について、事前に考えておいた方がよい方はたくさんいます。お子さんがいないご夫婦、内縁関係の方、会社を経営している方、不動産賃貸業をしている方などは、特に一度検討していただきたいです。
相談したからといって、必ず何かを依頼しなければならないわけではありません。相談だけで終わっても構いません。まだ元気で、家族や財産のことを落ち着いて考えられる段階で、一度弁護士に相談してみてください。早い段階で考えておくことで、将来選べる方法を増やせると思います。


