インタビュー|天野仁弁護士 弁護士法人ステラ
―「お客さま第一」を貫く天野仁弁護士―

銀行員として17年勤務し、40歳で法科大学院へ進学して弁護士となった天野仁弁護士。銀行で培った交渉力と書面作成力を生かし、「お客さま第一」を掲げ、話を遮らず聞く姿勢を重視しています。本インタビューでは転身の経緯、独立後の歩み、ご相談者様との向き合い方、印象的な解決事例について、お話をお伺いしました。
——子どもの頃から、弁護士になりたいと思っていたのでしょうか。
弁護士という仕事に関心を持ったのは、小学校5、6年生の頃です。
子どもの頃は、正義のために裁判で活躍する弁護士を漠然とイメージしていました。
きっかけは、私が何か質問をした際に、親が六法全書を見せてくれたことです。「これは法律でこう決まっている」と教えてもらい、世の中のさまざまなことが法律によって決められていることに興味を持ちました。
——大学では法学部へ進学されていますが、卒業後は銀行に就職されていますね。
法学部には進学しましたが、当時は弁護士になることを現実的な進路として考えていませんでした。
今から約40年前の司法試験は非常に難しく、大学卒業後も何年も勉強を続けて合格を目指す人が多い時代でした。私は高校時代からオリエンテーリングを続けており、大学生活のすべてを司法試験の勉強に充てることにも抵抗がありました。
一方で、人や社会と関わる仕事には就きたいと考えていたため、大学卒業後は銀行へ入りました。

——銀行では、どのようなお仕事を経験されたのでしょうか。
銀行には17年間勤務しました。最初の3年間は支店で働き、その後は退職するまでの14年間、本部の仕事に携わりました。
支店では、目の前のお客さまとの関係を築きながら、銀行側の目標も達成していかなければなりません。単に会話をするだけではなく、相手の考えを理解し、どのように提案すれば納得してもらえるかを考える必要がありました。
本部では、銀行全体の施策、商品やサービスなどを企画し、関係部署の理解を得ながら実現させる仕事をしていました。新しい企画は関係部署の手間を増やすこともあるため、反対されることも少なくありません。企画の必要性を緻密に書面へまとめ、関係者を説得して実現させる経験を重ねました。
——銀行での経験は、現在の弁護士業務にも生きていますか。
現在の交渉力や書面作成力の基礎は、銀行員時代に身につけたものだと思います。
弁護士の仕事でも、自分の主張を一方的に述べるだけでは、相手を動かすことはできません。相手の立場や利害を考えながら、どのような順番で説明すれば理解を得られるかを組み立てる必要があります。
複雑な事情をまとめて書面にし、相手方や裁判所を説得するという点でも、銀行本部で企画を通してきた経験が役立っています。
——銀行員から弁護士へ転身しようと思ったきっかけを教えてください。
もともとは、人や社会と直接関わる仕事がしたいと考えて銀行に入りました。
しかし、17年間のうち14年間を本部で過ごし、実際には、人や社会と直接関わる仕事からは長く遠ざかってしましました。
その頃、法科大学院制度が始まり、以前よりも弁護士を目指しやすくなったという話を聞きました。それなら、子どもの頃から関心を持っていた弁護士に挑戦してみようと思い、40歳で銀行を退職しました。
——安定した仕事を辞めることに、不安はありませんでしたか。
不安がまったくなかったわけではありません。
ただ、不安について考え続けるよりも、合格できるように勉強するしかないと思っていました。妻も反対せず、応援してくれました。
銀行員時代に蓄えた資金で法科大学院へ通い、アルバイトはせず、司法試験の勉強に集中しました。
——社会人から学生に戻り、生活はどのように変わりましたか。
法科大学院での学生生活は自由な時間が多く、楽しかったですね。
当時の法科大学院には、旧司法試験の難しさから弁護士を諦めていた社会人経験者も多く入学していました。同じように別の仕事を経験してから法律家を目指す仲間がいたことも、心強かったです。
——司法試験に合格したときは、どのような気持ちでしたか。
もちろん、うれしかったです。試験では失敗したと感じたところもあり、合格できるか不安でしたが、合格できて良かったです。
——長く続けているオリエンテーリングについて教えてください。
オリエンテーリングは、地図を読みながら山の中に設置されたポイントを回り、ゴールまでの時間を競うスポーツです。
高校の部活動で始め、大学でも続け、現在も休日に大会へ参加しています。一つのレースは1時間程度ですが、山道を登ったり下ったりしながら走るため、かなり体力を使います。
競技者は1分間隔などでスタートし、基本的には一人で地図を読みながら進みます。限られた時間の中で、どの地点をどの順番で回るかを判断する点は、司法試験で論点を見つけ、答案を組み立てる作業にも似ていると感じました。
現在は、日本オリエンテーリング協会の顧問弁護士も務めています。

——司法修習後、法律事務所へ就職せず、すぐに独立したのはなぜですか。
もともと、弁護士になったら自分で事業を始めたいと考えていました。
人や社会と直接関わる仕事をしたいという思いと同じくらい、自分の考えで自由に仕事をしたいという気持ちがあったからです。
弁護士以外の事業も考えましたが、何の資格もない状態で事業を始めることには不安がありました。弁護士資格があれば、独立しても仕事を続けていけるのではないかと考え、司法修習後すぐに事務所を開設しました。
——独立直後に最も苦労したことは何でしょうか。
仕事がどこから来るのか分からなかったことです。
当初は、弁護士が少ない地域で開業すれば依頼が来るのではないかと考えていました。しかし、法科大学院の同期と共同で事務所を借りることになり、結果的に弁護士の多い四谷で開業しました。
修習時代にお世話になった先生へ相談したところ、「人と会うことを億劫がってはいけない」「弁護士以外の人に挨拶状を出し、弁護士になったことを発信し続けなさい」と助言されました。
そこで、知人など約400人に挨拶状を送り、新しく知り合った人にも毎月挨拶状を送り続けました。翌年に年賀状を送る頃には、宛先が約800人に増えていました。その頃には、知人や紹介を通じて相談が入るようになり、事務所も運営できるようになっていました。現在も毎年、約1000通の年賀状を送っています。
——多くの方へ挨拶した経験から、どのようなことを学びましたか。
人とのつながりや縁の大きさを学びました。
弁護士になったことを周囲へ知らせておくと、誰かが困ったときに思い出してもらえます。無理に営業をする必要はなく、弁護士であることを伝えたうえで、普段どおり人と付き合い、人柄を知ってもらうことが大事だと分かりました。
銀行員時代は、銀行という組織が持つ人脈や取引関係の中で仕事をしていました。独立して初めて、自分自身が築いてきた友人や知人とのつながりのありがたさを実感しました。
——「ステラ」という事務所名には、どのような由来があるのでしょうか。
「ステラ」はラテン語で「星」を意味します。現在は、社会の一隅を照らす存在でありたいという思いを込めて使用しています。
——代表として、どのような事務所を目指していますか。
「お客さま第一」の事務所を目指しています。
利益だけを優先する運営では、事業を長く続けることはできないと、銀行員時代の経験から感じています。まずはご相談者様やご依頼者様の満足度を高め、その結果として利益が後からついてくる形でなければならないと考えています。

——ご相談者様と向き合う際に、重視していることを教えてください。
話を徹底的に聞くことです。基本的には途中で話を遮らず、ご相談者様が話したいことを一通り話してもらいます。
最初は事件と関係がないように思える内容でも、詳しく聞くと法的な争点につながっていることがあります。弁護士が早い段階で「その話は関係ない」と判断してしまうと、解決に必要な事実を取りこぼすおそれがあります。
まずは十分に話を聞き、その後で私の見解や考えられる対応方法を説明するようにしています。
——相談を終えた方からは、どのような言葉をかけられることが多いですか。
相談を終えた時点では、「話を聞いてもらって心が軽くなった」と言われることがあります。
依頼するかどうかにかかわらず、抱えていた事情を弁護士へ話し、今後の見通しを知るだけでも、気持ちが落ち着くことがあるのだと思います。
事件が終了した際には、「先生に頼んでよかった」と言っていただくことがあります。複数の弁護士へ相談したうえで私を選んだ方から、「ほかの弁護士からは聞けなかった見解や解決案を示してもらえた」と言っていただいたこともあります。
——厳しい見通しを伝える際に、気をつけていることはありますか。
厳しい見通しであっても、曖昧にせず、率直に伝えます。
厳しい点を踏まえたうえで、どのような対応ができるのかを一緒に考えることが弁護士の役割だと思っています。
——早い対応を続けるために、工夫していることはありますか。
連絡を受けたら、できる限りその場で処理することを基本にしています。
メールであれば、その場で返信できるものはすぐに返信します。クイックレスポンスを特別な対応ではなく、普段の仕事の原則にしています。
——説得力のある書面を書くために、意識していることを教えてください。
読み手は、私と同じ情報量を持っていないことを前提に書いています。
弁護士はご依頼者様から詳しく話を聞き、資料も確認しているため、事件の経緯を理解しています。しかし、相手方や裁判官は、初めて書面を読んで事案を知ることになります。
そのため、主張だけを書くのではなく、その主張を理解するために必要な背景事情から説明します。法律論だけでなく、一般的な感覚として「通常であればこうなるはずなのに、この事件ではそうなっていない」という点を示すことも意識しています。

——銀行で働いていた経験は、離婚や相続の案件でも役立っていますか。
預金や株式などが問題になる離婚の財産分与、遺産分割では、特に役立っています。
銀行や証券会社がどのような資料を保有しているのか、どこへどのような照会をすれば情報を得られる可能性があるのかについて、ある程度の見当をつけられるからです。
例えば、財産分与の案件で、相手方が株式を含めても数百万円程度の財産しかないと主張していたことがありました。私はご依頼者様に対し、自宅へ届く株式の配当通知などを撮影して保管するよう伝えました。
その資料を手がかりに信託銀行などへの調査を進めたところ、相手方が開示していなかった証券会社の口座が判明し、最終的には約6000万円の株式資産があることが分かりました。銀行や証券に関する知識がなければ、どの資料に注目し、どこへ調査を求めるべきか判断しにくかったと思います。
——これまで、どのような分野の相談を多く受けてきましたか。
離婚と相続に関する相談が多いですが、交通事故、労働問題、刑事事件、破産、会社法務など、幅広い案件を扱ってきました。
知人や過去のご依頼者様からの紹介で相談を受けることも多いため、特定の分野だけに限定せず、相談を受けた案件にはできる限り対応しています。
——不倫慰謝料や離婚では、どのような相談が多いですか。
離婚事件では、男女のどちらからも依頼を受けています。離婚そのものについて争う案件もあれば、財産分与が中心になる案件もあります。
不倫慰謝料についても、請求する側と請求を受けた側の双方を担当しています。それぞれの立場を経験しているため、相手方がどのような主張をし、どの点を問題にするのかも踏まえて対応できます。
——労働問題では、どのような相談を受けることが多いですか。
退職勧奨、配置転換、減給など、不利益な扱いを受けた労働者側からの相談が多いです。
退職勧奨を受けている段階から介入し、会社に対して退職しない意思を伝えることもあります。その後に転職先が決まった場合には、その事情を踏まえて退職条件の交渉へ切り替えることもあります。
——これまでの案件で、特に印象に残っている解決を教えてください。
離婚の財産分与で、約1億2500万円を獲得した案件が印象に残っています。
相手方は会社を経営しており、その会社は海外に不動産を所有するなど、大きな価値を持っていました。相手方は、会社は自分の努力によって築いたものであり、妻は会社経営に関与していないため、財産分与の対象にはならないと主張していました。
しかし、一人会社に近い会社であっても、婚姻期間中に形成された株式の価値は、財産分与で考慮される可能性があります。会社の株式価値を検討し、財産分与の割合についても争った結果、最終的には夫婦の財産形成への寄与を原則どおり同等とする判断が維持され、約1億2500万円を獲得しました。
——婚姻費用の案件でも、金額を大きく変更したことがあるそうですね。
婚姻費用について、月額20万円とした審判を不服として抗告し、月額54万円へ変更された案件があります。
相手方は会社経営者で、前年には約1800万円の収入を得ていました。ところが、婚姻費用を請求された後、自身の収入を約600万円まで減額していました。最初の審判では、減額後の収入を基準に婚姻費用が計算されてしまいました。
しかし、会社を支配する立場にある人が、婚姻費用の負担を減らすために自分の収入を下げることを、そのまま認めるべきではありません。抗告審では従前の収入などを踏まえた判断がされ、月額54万円へ増額されました。

——周囲からは、どのような性格だと言われますか。
温厚だと言われることが多いです。以前、事務所の職員から「怒っているところを見たことがない」と言われたこともあります。
もっとも、事件で納得できない主張をされた際には、強く反論することもあります。普段は穏やかでも、ご依頼者様の権利を守るために譲れない場面では、きちんと主張することが必要だと思っています。
——休日はどのように過ごしていますか。
オリエンテーリングや登山で山へ行くことが多いです。遠くの山へ行けないときは、近所の里山や公園を走っています。
山や自然の中で体を動かすことが、仕事から気持ちを切り替える時間になっています。
——難しい案件に向き合う際、何が支えになりますか。
自分の信念と、事務所の仲間の意見です。
難しい案件では、「これはおかしい」「この主張は認められるべきではない」という自分なりの正義感が、事件に向き合う力になります。
ただし、自分の考えだけで進むと、視野が狭くなってしまうことがあります。判断に迷ったときは、事務所のほかの弁護士にも相談し、異なる見方や意見を聞くようにしています。
現在、事務所には弁護士や職員を含めて約20人が在籍しています。一人で抱え込まず、仲間と議論しながら事件に向き合えることは、大きな支えになっています。
——弁護士になって、特にうれしかったことを教えてください。
昔の友人や仲間が、困ったときに私を頼ってくれることです。弁護士になっていなければ、もう一度会うことがなかったかもしれない人と、事件をきっかけに再会することもあります。
ご依頼者様と一緒に難しい事件へ取り組み、納得できる結果を得られたときも、弁護士になってよかったと感じます。

——今後、どのような弁護士でありたいと考えていますか。
今後も、今と変わらず自分で事件を担当し、ご依頼者様と直接向き合う弁護士でいたいと思っています。
同年代の友人には定年を迎える人も増えていますが、弁護士には決められた定年がありません。体力や状況に応じて担当する件数を調整しながら、これからも必要としてくれる人の事件に向き合っていきたいです。
弁護士の仕事以外にも、新しいことへ挑戦する機会があれば取り組んでみたいと思っています。
——最後に、弁護士への相談を迷っている方へメッセージをお願いします。
弁護士への相談は敷居が高いと感じている方も多いと思います。
しかし、一人で悩み続けていても、状況が変わらないことがあります。弁護士へ事情を話し、法的な見通しを知るだけでも、気持ちが軽くなり、次に何をすべきかが見えてくることがあります。
悩んでいることがあれば、まずはお気軽にお電話ください。




