高齢化社会で増える相続トラブルにどう向き合うか
―膨大な資料の調査・整理を得意とする田阪裕章弁護士の相続実務―

総務省や特定非営利活動法人での勤務を経て、現在は相続を中心に多くの案件を手がける田阪裕章弁護士。
高齢化社会の進展とともに増え続ける相続トラブルに対し、「初動のスピード」と「徹底した調査」を重視した実務対応を行ってきました。感情が絡みやすい相続問題を、いかに現実的、かつ、適切な解決へと向かわせるのか。
本インタビューでは、相続分野に注力する理由や具体的な手法、後悔しないための相談タイミングなどについてお話を伺いました。
――総務省や特定非営利活動法人でのキャリアが目を引きますが、弁護士を目指したきっかけを教えてください。
1990年代初頭のバブル崩壊に対応するため、「事前指導型から事後監視・紛争解決型」の社会への移行を目指して、規制緩和や「司法制度改革」が行われました。
私がいた総務省でも認可制から届出制への規制緩和がなされましたが、日本の社会全体で行政から司法への大きな流れがありましたので、その大きな流れに乗るべく一念発起して、総務省を辞職し、弁護士を目指すこととしました。

――数ある法律分野の中で、特に相続に力を入れているのはなぜでしょうか。
一番大きいのは、高齢化社会の急速な進展です。それに伴って、相続に関する問題やトラブルも急増しています。日本の社会全体でみたときに、高齢者層に富が偏在していることもその要因だと思われます。
相続は、誰にでも起こり得る問題である一方、感情的な対立が生じやすく、いったん揉めると長期化しやすい分野でもあります。そうした現実を目の当たりにする中で、相続分野にしっかり向き合う必要性を強く感じています。
――相続の相談では、法律の話以上に「気持ちの部分」で悩まれている方が多い印象があります。実際の相談現場では、どのような感情を抱えた方が多いのでしょうか。
典型的なところでは、親の気持ち子知らずとも言うように、兄弟間で不平等な取り扱いがなされた、といった不満を抱えている方は非常に多いのですが、法律を適用することによって、その不満を解消することは非常に困難です。
こじれてしまって本人同士の話し合いが全く進まなくなったような場合では、代理人が就任して適切な解決へと導くことによって、ストレス過多な交渉ごとから距離を置くことができますし、きちんとした結論が出ます。

――相続を多く扱ってきた弁護士として、ご自身の強みはどこにあるとお考えですか。
相続案件は非常に複雑なものが多く、まずはきちんと整理する必要があります。
最初に、戸籍を収集して、相続関係図を作成し、相続人を確定させます。ここにミスがあると、あとあと大変なことになりますので、正確な作業が要求されます。
次に、不動産登記簿謄本、預金通帳(取引履歴)、保険証券、有価証券報告書、車検証などの資料を収集して、遺産目録を作成し、遺産を確定させます。ここでは、預金口座などをどこまでの範囲で調べるのかが一つの重要な問題になります。
また、以前に医療関係訴訟を取り扱っていた経験があり、その経験を活かして、認知症などによる意思能力の有無が問題になるケース(遺言無効、養子縁組無効、使途不明金問題など)において、病院からカルテを取り寄せて、認知症などの進行状況を一覧表にまとめます。
これらの過程において、膨大な資料を収集して迅速的確に整理することで、事案ごとの最適な方針を立てることができるようになります。
このほか、不動産案件も多く扱っており、共有不動産の問題や、遺産分割後の不動産の売却まで含めた対応もワンストップで行っています。
――これまで多くの遺産相続案件を扱われてきた中で、「相続はここを押さえておかないと必ずこじれる」と感じる共通点はありますか。
まずは、どのような財産があるのか家族みんなで共有することが第一歩です。子供には財産を知られたくないという意見を聞くことがありますが、財産が分からなければ、家族のうちで相互に不信感が増大します。この点が、相続がもめる発火点になることが多いように思います。
次に、できるだけ早期に遺言書を作成し、家族みんなに意向をきちんと伝えておくことが非常に重要です。もめる事件の共通点として、「なんとかなるだろう」と思っていたので、特に何の準備もしなかったということがあります。相続には周到な準備が必要です。
そして、実際のところ、一番重要なことは、実は、円滑なコミュニケーションが可能な人間関係にあるのではないかと思います。

――遺産相続のご相談では、実際にどのような内容の相談が多いですか。
最初の入口のところで、財産が隠されているのではないか、あるいは使い込みを疑われているなど「使途不明金」で揉めているケースが多いです。そこから遺産分割や遺留分の問題へと発展していきます。
そのほか、遺言書の有効性や養子縁組の有効性が争点になるケースもあります。
また、遺産の中に共有不動産が含まれるケースは、長期化する典型的なケースになりますが、相談を受けることが多く、最初の方針の立て方が重要だと思います。
――遺産の使い込みや、財産の全体像が見えないケースなど、難しい相続問題ではどのような点を意識して対応されていますか。
まず、徹底的に調査すること、調査の結果得られた膨大な資料を迅速的確に整理すること、ここまでやってようやく、事案ごとの最適な方針を立てることができるようになります。相談に来られてすぐに、事件の見通しを聞かれることも多いのですが、事件の見通しが分かるようになるまである程度の期間を要する案件も多数あります。
――遺産相続について、どの段階で弁護士に相談するのが一番良いとお考えですか。
できるだけ早期に相談していただきたいと思います。極端な話、結婚して、マイホームを購入する、これから資産形成をはじめるというタイミングでも、将来の相続のことも考慮に入れていただきたいくらいです。
家族だから何とかなる、あるいは、相続税を節税したいから正直に言いにくい、など弁護士に相談せずに、自己判断で財産を移動、処分などされる方が多く、後々の紛争の種をあたり一面にばらまいてしまうケースもあります。
相続を意識した財産の移動、処分などについては、考慮しなければならない事項が多くあり、その中には一般の方にはなじみのないこともあります。
思い立ったら、すぐに相談していただくことが肝要かと思います。
――遺産相続で、もう少し早く相談していただきたかったと感じるのはどのような場合ですか。
よくあるのが、遺産分割協議書を作成することなく、相続人全員が金融機関に提出する書面に実印を押印し、相続人の代表者が預金を引き出してしまうケースです。相続人の代表者がちゃんとしてくれると思っていたのだろうと思いますが、一度引き出されたお金を、後から取り戻すのは簡単ではありません。
また、脳梗塞や認知症などによって判断能力を失った後、長期間にわたって親族が財産管理を行ってしまうと、結果として「使い込み」を疑われるケースも多いです。この場合、早めに成年後見人の申立てをしていれば、紛争になるのを防げたはずです。
――遺産相続で弁護士が入る最大のメリットは、どこにあるとお考えですか。
紛争が確実に終わるという点が最大のメリットです。
親族間でこじれてしまい、どうしていいか分からなくなってしまった状態を整理し、調停や訴訟などの法的手続きを通じて、適切に解決をします。紛争に一区切りをつけることによって、過去に囚われず、未来を展望することができるようになるのではないでしょうか。
――先生の事務所は、どのような方針で相続案件に向き合っていますか。
「初動のスピード」と「徹底した調査」を重視しています。
迅速な調査・整理を経て、早めに方針を立てることで、依頼者が長く悩み続ける状態を減らしたいと考えています。
方針を立てることができれば、その方針に沿って、法的手続きなどを進めていきます。

――お忙しい日々の中で、仕事と気持ちを切り替えるために意識していることはありますか。
現在、多数のご依頼をいただいておりますので、多忙になりがちで、土日・お盆・年末年始も仕事をしていることが多いのですが、息抜きのために、サッカーを観戦したり(J1リーグ・京都サンガF.C.のオフィシャルスポンサーに就任しました)、友人とテニスをしたり、茶道の稽古に行くなど、少しでも仕事以外の時間を作るように意識しています。
――最後に、このインタビューを見ている方へメッセージをお願いします。
現在、悩んでいることがあれば、一人で悩むことなく、弁護士に相談してください。自分であれこれ悩むのは本当にしんどいことです。
中には、丸ごと任せっきりにしたいという意向の方もいらっしゃいます。難しい交渉から解放されて、精神的に楽になることのメリットは絶大だと思います。



