インタビュー|岸秀行弁護士 弁護士法人大阪鶴見法律事務所
―医療と法律をつなぎ、交通事故被害者の「その後」まで支える岸秀行弁護士―

一般企業で約10年間勤務後、法科大学院へ進み、弁護士登録と同時に大阪市鶴見区で独立した岸秀行弁護士。依頼者を「友達」のように考え、法律上の勝ち負けだけでなく、その人の利益になる解決を重視しています。本インタビューでは、弁護士への転身、即独の歩み、交通事故の医療連携、相談姿勢について、お話をお伺いしました。
——まず、岸先生が弁護士を目指すようになった経緯を教えてください。
大学は法学部でした。会社員として働く中で、自分の力で何かをやりたいと考えるようになったんです。せっかくなら人の役に立つ仕事がいいと思い、自分の専攻ともつながる弁護士を目指しました。
何か一つ大きな出来事があったというより、仕事を続ける中で少しずつその思いが強くなっていった、という感覚ですね。
——大学卒業後は、約10年間一般企業で勤務されていたそうですね。どのようなお仕事だったのでしょうか。
パチンコホールを運営する会社で、約10年間働いていました。規模の大きな会社でしたので、お客様は私個人というより、まず会社の名前を見て来てくださるところがありました。
また、一社員の立場では言えることやできることに限界があります。雇われている以上、言いたくても言えないこともあります。そうした経験が積み重なって、会社の看板ではなく、自分の名前で仕事をしてみたいという気持ちにつながったと思います。
——会社を辞めて法律の世界へ進むことに、不安や迷いはありませんでしたか。
一番ハードルが高かったのは、勉強そのものより会社を辞めることでした。弁護士になれるかどうか分からない状態で退職していますから、不安がなかったわけではありません。
当時はまだ結婚していませんでした。親からは「頭がおかしくなったんか」と言われましたが(笑)、最後は「自分の人生なんだから、やりたければやればいい」と任せてもらいました。退職後に法科大学院へ進みました。

——弁護士登録後、法律事務所に勤務せず、最初から独立されたのはなぜでしょうか。
そもそも弁護士を目指した理由の一つが、どこかに雇われるのではなく自分で仕事をしたいという思いでした。ですから、勤務弁護士になるより、最初から自分でやる方が自然でした。
会社員を10年経験してからのスタートでしたので、周りより遅れているという意識もありました。できるだけ早く自分で始めたいと思い、弁護士登録と同時に独立しました。
——弁護士としての経験がない状態での独立は、実際にはいかがでしたか。
もう、苦労しかなかったですね。今でこそ事務所には必要な備品がそろっていますが、最初は大きな部屋に机が一つだけ、という状態でした。
交通事故の案件などはありましたが、開業して半年くらいは、ほとんど仕事がない時期もありました。これでやっていけるのかという不安に駆られたことは、よく覚えています。
——大阪市鶴見区で開業したのには、どのような理由があったのでしょうか。
最初から明確な地域戦略があったというより、知り合いの整形外科の先生が近くにいらっしゃったことがきっかけです。交通事故の仕事にもつながるかもしれないと思い、この場所で始めました。
当初は「地域密着」でスタートしましたが、今は鶴見区や周辺の方だけでなく、交通事故について府外・県外からお問い合わせをいただくことも増えています。地域の方に身近でありつつ、遠方からも頼っていただけるのはありがたいですね。

——法律事務所の敷居を低くするために、意識していることはありますか。
特別なことをしているつもりはありませんが、できるだけ堅苦しい雰囲気を出さないようにはしています。それと、社会人として当たり前の対応をきちんとすることですね。
事務所の弁護士には、「依頼者だと思うとお互い緊張するから、お友達だと思って接したらいい」と話しています。友達から相談を受けていると思えば、自然に話しやすい空気になると思うんです。
——ご相談を受ける際、法律上の結論だけでなく、その方が本当に望む解決を把握するために大切にしていることはありますか。
友達から相談されたと考えると、「法律上請求できるか」「裁判で勝てるか」だけではなく、そもそもそれをやることが本人のためになるのかという視点が出てきます。
例えば、費用や時間をかけて争うより、別の方法を選んだ方がいいこともあります。場合によっては「そこまでしてやらなくてもいいんじゃないですか」と伝えることもあります。弁護士として受任することが、その人にとって本当にいいのかまで考えるようにしています。
——事件を受任した後、解決までの見通しはどのように説明していますか。
最初から細かい話をたくさんしても、相談者の方には目の前のことしか見えないことがあります。ですから、まずは全体の大きな流れを説明して、「だいたいこういう順番で進みます」というイメージを持ってもらいます。
その全体像を理解してもらってから、今やるべきことや細かい手続を説明するようにしています。
——依頼後の連絡や報告について、特に大切にしていることは何でしょうか。
一番は、当たり前のことを当たり前にすることです。何か動きがあればきちんと報告する。弁護士だから連絡が遅くても許される、ということにはしないようにしています。
ただ、連絡の頻度は人によって変えています。すごく心配される方には定期的に状況をお伝えしますし、「全部お任せします」という方には必要な場面を中心にご連絡します。その方に合う対応を意識しています。
——ご相談者様が望む結果と、法律上現実的に目指せる結果に差がある場合はどうしますか。
そこは、できれば受任する前の段階で率直にお伝えします。ただ、難しい案件だからという理由だけで断ることは、あまりありません。
難しいことを理解してもらったうえで、「結果が出なくても、それでもやってみたいですか」と意思を確認します。それでも希望されるのであれば、「では、やれるところまでやりましょう」という形で進めることがあります。

——岸先生が交通事故の被害者側の案件に力を入れるようになった背景を教えてください。
一つは、整形外科の先生からサポートを受けられる環境があったことです。もう一つは、弁護士費用特約が広がり、被害者の方が保険を使って弁護士費用をまかなえるケースが増えたことです。
それによって、被害者側でも必要な調査や対応に取り組みやすくなりました。被害者側として、やるべきことをきちんとできる。そこに交通事故へ力を入れる意味を感じました。
——交通事故では、弁護士への相談が早い場合と遅い場合で、どのような違いがありますか。
交通事故では、治療が終わってから弁護士に相談されるケースも多いです。ただ、その段階で記録を確認すると、必要な検査が行われていないなど、後からでは取り戻しにくいことがあります。
弁護士から見ると、検査結果や診療記録は、後の手続でこちらの主張を裏付ける「武器」になります。早い段階であれば、治療そのものを邪魔しない範囲で、必要な検査について確認したり、場合によっては適切な医師を紹介したりできます。今後の手続を見据えた準備ができるという点は大きいです。
——医師との連携を重視されているのは、なぜでしょうか。
交通事故は、法律だけで完結するものではないからです。治療の経過が、その後の示談交渉や後遺障害の手続、裁判に直結することがあります。
主治医の先生ときちんと連携できていれば、必要に応じて意見書をお願いしたり、なぜその検査や治療を行ったのかという経過を確認したりできます。保険会社側から医学的な意見が出てきたときにも、医療面の理解がなければ十分に検討できません。
——治療や検査の内容は、後遺障害の認定や損害賠償にどのように影響しますか。
後遺障害の申請は、基本的には書類をもとに判断されます。いくらご本人が「症状が残っている」と訴えていても、診断書や検査結果にそれを裏付ける材料がなければ、通るものも通らないことがあります。
難しいのは、医師が治療のために必要だと考える検査と、後の法的な手続で必要になる検査が、必ずしも一致しないことです。そこを弁護士が橋渡しし、「治療上は必須ではなくても、手続上は確認しておきたい」という点を医師に相談することがあります。
認定される後遺障害の内容が変われば、損害賠償額も大きく変わります。事案によっては、数千万円単位の差になることもあります。
——医療機関と早い段階から連携したことで、より良い解決につながった印象的な事例はありますか。
印象に残るのは、脳を損傷した方のケースです。事故直後は救急病院の脳外科などで治療を受けますが、出血が止まると急性期の治療としては一区切りになることがあります。
ところが、その後に人格が変わったり、記憶がうまくできなくなったりする症状が残ることがあります。見た目には大きな変化がないので、専門的な検査を受けないまま過ぎてしまうケースもあります。
そうした方に専門的な検査ができる医師を紹介し、必要な評価を受けてもらうことで、後遺障害の認定につながったケースがあります。もし適切な検査にたどり着かなければ、本来の状態に見合わない賠償金額で終わっていた可能性もあります。
——他の弁護士に依頼中の方から、交通事故についてセカンドオピニオンを求められることもありますか。
あります。多いのは、依頼している弁護士から「医療のことは医師に聞いてください」と言われたものの、治療が終わっていて医師にも十分に相談できず、どうしたらいいか分からないというケースです。
セカンドオピニオンでは、まず医療的な知識がなくても問題なく進められる事案なのか、医療面まで踏み込まないと危ない事案なのかを見ます。前者なら「今の先生にそのままお願いして大丈夫だと思います」とお伝えします。後者であれば、何が問題なのかを具体的に説明し、必要に応じてこちらで対応することもあります。
——岸先生が考える、交通事故被害者の「真の救済」とは何でしょうか。
適切な賠償金を受け取ることは、もちろん大切です。ただ、事故で障害が残った方の人生は、賠償金を受け取ったところで終わるわけではありません。
例えば脳に損傷が残った方は、見た目には以前と変わらなくても、生活の中で困ることが出てきます。検査によって「この能力が弱くなっているから、今後はこういう点に注意した方がいい」と医師から助言を受けられれば、その後の生活に役立ちます。
私は、生活面の支援と金銭面の補償、その両方がそろうことが大事だと思っています。
——交通事故で培った医療との連携は、労災事件にも活かされていますか。
そうですね。転落事故など、仕事中のけがを扱う労災では、交通事故と共通する部分がかなりあります。認定する機関や書類は異なりますが、障害がどの程度残ったのかを医学的な資料で示すという考え方は近いです。
そのため、交通事故で積み重ねた医療面の知識や、医師との連携の経験は、労災でも活かせると感じています。
——パワーハラスメントなど、精神的な問題を伴う労災相談では、どのような点を見ていますか。
パワハラを受けて心療内科へ行き、「適応障害」「うつ」と診断されたから、すぐに労災として認められる、というわけではありません。実際には、どの程度の精神的な負荷が、どれくらいの期間続いたのかを見ていくことになります。
特に、発言の録音などの資料があり、第三者が見ても強い負荷があったと分かるケースは検討しやすいです。一方で、本人の感じ方だけでは、外から見たときにどの程度の出来事だったのか判断しにくいことがあります。客観的に示せる資料があるかは大きいですね。
——会社員として働いた経験は、解雇や残業代、ハラスメントなどの労働問題を見るうえで影響していますか。
正直に言うと、「会社員経験があるから、労働者側の気持ちが何でも分かる」という感じではありません。むしろ、普通に会社で働いてきた感覚があるので、相談内容によっては「それは会社だけの問題ではなく、あなた側にも改善するところがあるんじゃないですか」と感じることもあります。
一方の立場だけで決めつけず、職場の現実感も踏まえて事案を見るという意味では、会社員経験が影響しているのかもしれません。

——交通事故や労災に限らず、幅広い事件を扱ううえで一貫して大切にしている姿勢はありますか。
やはり、その人にとって本当に利益になることを提案したいということです。一件の事件を受けて、それで終わりという関係ではなく、できれば長いお付き合いにつながるような仕事をしたいと思っています。
そのためにも、弁護士が受任した方が得だから受ける、という発想ではなく、相談者にとって何が一番いいのかを考えることを大切にしています。
——今後、事務所として力を入れていきたい分野やサポートはありますか。
今後は、顧問先のように長い目でいろいろなお手伝いができる関係を増やしていきたいと考えています。
大げさな企業法務というより、地域の中小企業が日々のちょっとした相談をできるような関係ですね。問題が起きたときだけではなく、普段から相談してもらえる存在になれればと思っています。
——弁護士になってから現在までで、ご自身の考え方が大きく変わった部分はありますか。
大きく変わったという感覚は、あまりありません。むしろ、最初から大切にしてきたやり方でここまで続けてきて、少しずつ依頼してくださる方が増えているので、方向としては間違っていなかったのかなと思っています。
これから何かを大きく転換するというより、今の姿勢を続けながら、できることを広げていきたいですね。

——趣味のレーシングカートについて教えてください。どのようなところに魅力を感じていますか。
レーシングカートそのものも面白いですが、私が特に楽しいと感じているのは、仕事も業種も全く違う人と、同じ趣味を通じて付き合える点です。休日に走りに行っています。
社会人になってから始めて、弁護士になって少し余裕が出てから本格的に取り組むようになりました。ここ6、7年くらいは、かなり真面目にやっています。車の仕組みに触れることも多いので、その知識が交通事故の事件で役立つこともあります。
——最後に、「弁護士に相談するほどのことなのだろうか」と迷っている方へメッセージをお願いします。
多くの方は、そもそも自分の悩みが弁護士に相談する案件なのかどうかで迷われていると思います。ですが、まずは一度相談してみたらいいと思います。
弁護士が扱う問題ではないのであれば、そのことをお伝えしたうえで、「では、どうしたらいいか」を一緒に考えることはできます。弁護士が対応できる問題であれば、そのままお手伝いできます。
「相談するべきか」と悩んでいる時間がもったいないこともあります。迷っている段階で、気軽に相談していただければと思います。
