インタビュー|辰野樹市弁護士 ファミリア総合法律事務所

「やれるだけやってみる」―知財を広く見渡し、相談に時間をかける辰野樹市弁護士—
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文部科学省の原子力損害賠償紛争処理センターでの勤務を経て弁護士となり、東京大学大学院で知的財産法を学び、弁理士資格も取得した辰野樹市弁護士。新しいことにはまず挑戦し、ご相談者様の話に時間をかけて向き合う姿勢を大切にしています。本インタビューでは、独立までの歩み、知財実務、相談姿勢、陸上競技について、お話をお伺いしました。

「環境を守る仕事がしたい」―原子力損害賠償の仕事から弁護士へ

——弁護士になる前は、文部科学省の原子力損害賠償紛争処理センターで勤務されていたそうですね。どのようなお仕事をしていたのでしょうか。

東日本大震災で被害を受けた方が非常に多く、その補償に関する審査のような業務に携わっていました。当時はまだ弁護士ではありませんでした。

——そこから、弁護士を目指したきっかけを教えてください。

大きな理由の一つは、環境保護に関わる仕事をしたかったことです。私は千葉県銚子市の出身で、子どもの頃から身近にあった海や川、山などの自然が少しずつ変わっていくのを感じていました。
例えば、開発や埋立てなどについて環境への影響を調べる手続きが適切に行われていない場合に、行政訴訟などを通じて関われないかと考えていました。もう一つは、毎日同じことをするより、いろいろな出来事に向き合う仕事の方が面白そうだと思ったことです。実際、弁護士の仕事は楽しいですね。

——弁護士になった後、県内の法律事務所でパートナーとして得た経験から学んだことはありますか。

一番は手続面です。法律の知識だけでは分からない、事件処理や裁判手続の進め方があります。実務に出て実際に経験したことで、その基礎を学べたのは大きかったと思います。

「新しいことはやってみたい」―独立してファミリア総合法律事務所を設立
「新しいことはやってみたい」―独立してファミリア総合法律事務所を設立

——パートナー弁護士を経て独立し、ファミリア総合法律事務所を設立した理由は何だったのでしょうか。

私は、新しい企画やビジネスモデルを思いついたら、どんどん試してみたいタイプなんです。勤務していた頃にも、ショッピングモールに法律相談のブースを出せないかといった企画を考えていました。
ただ、法律事務所は慎重なところもありますから、自分がやりたい企画がなかなか通らないこともありました。それなら、自分がやりたいことを実現するには独立するしかないなと思ったんです。

——新しいことに挑戦するとき、失敗への不安はありませんか。

もちろんあります。ただ、どうせやるなら、やれるだけやってみて、ダメだったらそのとき考えればいいと思っています。最初から失敗しないことだけを考えるより、まず動いてみる方ですね。

——「ファミリア総合法律事務所」という名前には、どのような考えを込めていますか。

「辰野総合法律事務所」や地域名を付けた名前にはしませんでした。設立当初は、将来的に全国展開することも考えていたので、特定の地域に限定されない名前にしたかったんです。
支店を増やすこと自体は、一般的な法律業務を扱いながら一定の広告費をかければ、ある程度はできると思っています。ただ、同じやり方を繰り返すだけではなく、自分の特徴を出せる方向へ進みたいという気持ちがあります。

知財を「広く見渡す」―弁護士・弁理士として専門家と連携

——数ある法律分野の中で、知的財産法を専門的に学んだ理由を教えてください。

知的財産には、特許、意匠、商標、著作権、不正競争など、さまざまな分野があります。実務で扱う中で、知財全体をきちんと学びたいと考え、東京大学大学院でも知的財産法を学びました。

——実務に携わった後に大学院で学んだことで、どのような違いを感じましたか。

実務では「この判例があるから、現実の事件ではこう考える」という発想になりがちですが、大学院では「理論的に考えればどうなるのか」を掘り下げます。直接指導を受けた先生も非常にロジカルに考える方で、実務との違いは強く感じました。

——弁護士だけでなく、弁理士資格も取得されています。知財事件を扱ううえで、どのような強みがありますか。

知財について全体を見渡しやすいことだと思います。ただ、特許一つをとっても、化学、機械、電気・電子など技術分野はさまざまです。私一人ですべての技術分野に対応することはできません。
だからこそ、専門性が必要な案件では、その技術分野に詳しい弁理士の先生とタッグを組みます。自分がどこまで判断でき、どこから専門家の力を借りるべきかを見極めることも、知財事件では大切だと思っています。

——弁理士登録のための研修も受けられたそうですね。

はい。弁護士資格があっても、弁理士として登録するためには研修があります。私のときは約3か月で、起案を提出するなど、仕事をしながら進めるのはそれなりに大変でした。

商標・著作権の現場―「いつ動くか」まで考えて交渉する
商標・著作権の現場―「いつ動くか」まで考えて交渉する

——これまでの知財案件で、特に印象に残っているものはありますか。

商標権侵害の交渉案件ですね。最終的には和解金を得て、相手方が販売をやめる内容で解決することができました。
知財事件は、単に権利があるかどうかだけではなく、「いつ相手に働きかけるか」も重要です。商標の出願・登録の進み具合を見ながら、こちらにとって適切なタイミングで交渉に入る。そうした知財特有の判断があります。

——著作権関係では、最近どのような相談がありますか。

Torrent、いわゆるトレントに関する著作権問題は扱っています。ある程度定型化された形で損害賠償を求められるケースもあるので、請求書面が届いたからといって、すぐにそのまま支払うのではなく、請求の根拠や金額を確認することが大切です。

——AIの普及によって、知財分野でも新しいトラブルが出てきていますか。

実際にAI関連企業について、商標権侵害や不正競争に関する交渉を扱ったことがあります。新しい技術やサービスが出れば、それに伴って新しい知財問題も出てくるので、今後も変化していく分野だと思います。

——中小企業や個人事業主の方に、知財トラブルを避けるために意識してほしいことはありますか。

大手企業や法律事務所から警告書が届いたら、できるだけ早く弁護士へ相談してほしいですね。自分で返答してしまうことで、後から対応が難しくなることもあります。
本人に権利侵害のつもりがなくても問題になることがあります。例えば、中古品を仕入れて販売したところ、後から模倣品だと分かるケースです。別の店舗で査定して値段が付いたため、本物だと思って販売してしまうこともあります。「知らなかった」で必ず解決するわけではないので、事業として商品を扱う方は早めに確認してほしいと思います。

先入観で決めつけず、相談に時間をかける

——ご相談者様とのコミュニケーションで、特に心掛けていることはありますか。

私は、相談にかなり時間をかける方だと思います。本当にきちんと話を聞かないと分からないことが多いからです。
弁護士は経験を積むと、「これはこういうタイプの事件だろう」と早い段階で類型化できます。でも、そこで決めつけてしまうと、大切な事情を見落とすことがあります。30分で終わらず、必要であれば1時間くらい話を聞くこともあります。

——ご相談者様から言われて、印象に残っている言葉はありますか。

「いろいろな事務所で断られたけれど、受任してもらえて助かった」「ほかでは話を聞いてもらえなかったけれど、ここでは聞いてもらえた」と言っていただくことがあります。そういう言葉はやはり嬉しいですね。

——一方で、依頼を受けない方がよいと率直に伝えることもあるそうですね。

そこははっきり言います。法律上は請求が認められる可能性があっても、得られる金額と弁護士費用を考えると、費用倒れになってしまうことがあります。そういう場合には、「請求できる可能性はありますが、私はやらない方がいいと思います」と伝えます。
弁護士として依頼を受けることと、その方にとって本当に良い選択であることは、必ずしも同じではありませんから。

——弁護士をしていて、やりがいを感じるのはどんなときですか。

報酬金が入ったときです(笑)。もちろん、それは案件がきちんと一区切りついたということでもありますからね。

知財だけに限定しない―幅広い事件で必要な専門家と連携
知財だけに限定しない―幅広い事件で必要な専門家と連携

——知財以外には、どのような事件を扱っていますか。

交通事故はかなり多いですし、建築・不動産、刑事事件、企業法務なども扱っています。地方で弁護士をしていると、一つの分野だけではなく、いろいろな相談に対応することになります。

——建築問題では、法律以外の専門知識も必要になりそうですね。

そうですね。建築瑕疵などは、法律だけでは判断できないことがあります。必要なときには、知っている建築士の方に相談し、一緒に検討しながら進めます。

——刑事事件では、どのような対応が多いのでしょうか。

最近は私選での示談交渉が中心です。示談が成立したら、その書面を警察や検察へ提出し、依頼者にとって少しでも良い結果につながるよう対応します。

——幅広い分野を扱いながら、知財にも力を入れるというのが先生のスタイルなのでしょうか。

そうですね。全部を一人で専門家として極めることはできませんが、幅広い事件を経験しているからこそ、全体を見渡したうえで「ここは別の専門家と組んだ方がいい」と判断できます。そのうえで、知財は自分の特徴として、今後さらに増やしていきたい分野です。

「不正解は無意味を意味しない」―失敗も想定内に入れる

——好きな言葉として「不正解は無意味を意味しない」を挙げています。この言葉は、仕事にもつながっていますか。

つながっています。私の中では、「想定外を想定内に入れておく」という感覚に近いですね。
どれだけ頑張っても、人は絶対に完璧にはなりません。自分も必ずどこかで失敗するということを分かったうえで動く。その方が次の行動に移りやすいと思います。

——失敗を避けるより、まず挑戦することを大切にしているのでしょうか。

失敗しないように努力することは必要です。ただ、私は早い段階で失敗を経験した方が、結果的に成長は早いと思っています。独立したときから、新しいことはまずやってみようという考え方は変わっていません。

仕事の外では現役アスリート―十種競技、ハンマー投げ、重量投げ、そして料理
仕事の外では現役アスリート―十種競技、ハンマー投げ、重量投げ、そして料理

——現在も陸上競技を続けているそうですね。

はい。十種競技やハンマー投、重量投などを続けています。社会人の大会にも出ていて、十種競技では県記録を2つ、ハンマー投と重量投では関東大会記録も持っています。

——弁護士業務と競技をどのように両立しているのでしょうか。

私は仕事の時間をかなり意識して区切っています。仕事以外の時間はトレーニングに使うことが多いですね。体力はありますが、長時間仕事をすること自体を目的にはしていません。
弁護士も体力が必要な仕事だと思います。特に移動が多い事件や、集中して書面を作る場面では、基礎体力があることはプラスですね。

——銚子市のご出身で、魚料理もお好きだと伺いました。

銚子は魚がおいしいですから、魚料理は好きです。調理師免許も持っています。仕事と競技以外では、料理をすることもありますね。

中小企業・ベンチャーの知財支援へ―弁護士選びは「マッチング」

——今後、特に力を入れていきたい分野を教えてください。

新しく別の分野を始めたいというより、知的財産分野の案件をもっと扱っていきたいです。特許だけ、商標だけと限定するのではなく、特許、意匠、商標、著作権、不正競争など、知財全体を幅広く扱っていきたいですね。
大企業の場合はすでに顧問弁護士や知財を扱う法律事務所が付いていることが多いので、特に中小企業やベンチャー企業の知財問題では、まだ弁護士が力になれる余地が大きいと思っています。

——最後に、このインタビューを読んでいる方へメッセージをお願いします。

私は、弁護士と依頼者は結局「マッチング」だと思っています。弁護士が法律的に正しいことを言っていたとしても、話していて「なんとなく合わないな」と感じるのであれば、無理にその弁護士へ依頼する必要はないと思います。
訴訟になれば、2年程度の付き合いになることもあります。長く一緒に事件を進めていく相手ですから、「この人なら話せそうだな」「この人とは合いそうだな」という感覚は大切です。直観というのは、要するに経験則の集約であると考えておりますので、ご自身の感覚に委ねてもいいと思います。