訴額とは?訴訟物の価額の計算方法・算定基準と印紙代を簡単に解説

訴額とは?訴訟物の価額の計算方法・算定基準と印紙代を簡単に解説

著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日


訴額がどのようなものか知りたいと悩んでいませんか

訴状に「訴訟物の価額」と記載されているのを見て、この金額は何だろうと感じたことも多いはずです。

訴額とは、当該訴訟において原告が裁判所に判断を求める目的物の価額です。印紙代や裁判所の管轄の基準となる金額です

訴額の計算方法を簡単に整理すると以下のとおりです。

類型別訴額の算定基準・計算方法⑶

訴額に応じた訴訟の印紙代を早見表にすると以下のとおりです。

収入印紙代

訴額については、まずは原告において計算して、これに応じ収入印紙を納めたうえで、不足がある場合には、裁判所から追納を求められることになります。

実は、訴額の計算は複雑であり、実務上の慣例に従い行われていることも多いことに加えて、裁判所によっても判断が変わることがあります

この記事をとおして、訴額の実務上の運用について、私の弁護士としての経験に基づいて、誰でもわかりやすいように簡単に説明できれば幸いです。

今回は、訴額とは何かを説明したうえで、訴訟物の価額の計算方法や算定基準と印紙代を簡単に解説していきます。

具体的には、以下の流れで説明していきます。

この記事を読めば、訴額がどのようなものかがよくわかるはずです。

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1章 訴額とは(訴訟物の価額とは)

パスロー

“訴額とは”

訴状(訴額)

訴額とは、当該訴訟において原告が裁判所に判断を求める目的物の価額です

正確には、訴訟物の価額と言います。

訴額は、印紙代や裁判所の管轄の基準となる重要な金額です。

印紙代とは、訴訟を提起する際に裁判所に納める収入印紙の金額のことです。訴額が高くなるほど納める印紙代の金額も増えてしまいます。

また、訴額が140万円以下であれば第1審は簡易裁判所、訴額が140万円を超えれば第1審は地方裁判所が管轄を有することになります。

例えば、訴額が200万円であれば、印紙代は1万5000円となり、第1審は地方裁判所に管轄があることになります。

訴額に誤りがあると裁判所からも補正を促され、手続きが円滑に進まないので、正しく理解しておきましょう

2章 訴額の計算方法・算定基準

訴額は、訴えで主張する利益によって算定するとされています(民事訴訟法8条1項、民事訴訟費用等に関する法律4条1項)。

類型ごとに訴額の計算方法や算定基準を整理すると以下のとおりです。

類型別訴額の算定基準・計算方法⑶

これらについて順番に説明していきます。

2-1 不動産(土地・建物)明渡請求の訴額

所有権に基づく不動産の明渡請求の訴額は、固定資産評価額の2分の1です

物の明け渡し請求が所有権に基づくものである場合には、訴訟物の価額は目的物たる価格の2分の1とされています(昭和31年12月12日民事甲第412号高等裁判所長官、地方裁判所長あて民事局長通知)。

そして、目的物たる価格について、固定資産税の課税標準価格があるものについては、その価格を基準とするとされています(昭和31年12月12日民事甲第412号高等裁判所長官、地方裁判所長あて民事局長通知)。

なお、家賃滞納がある場合において、併せて未払い家賃の請求もする場合には、これは訴額には含まれません。附帯請求となるためです(民事訴訟法9条2項)。

2-2 離婚事件の訴額

離婚事件の訴額は、160万円とされています。印紙代は1万3000円となります。

離婚事件について、附帯処分等の申し立てをする場合には、以下のとおりとなります。

⑴ 親権者の指定
追加の手数料は不要とされています。
離婚した場合には、当然に親権者が定められるためです。
⑵ 養育費
子ども1人につき1200円の印紙代が追加になります。
⑶ 財産分与
1200円の印紙代が追加になります。
財産の金額にかかわらず一律に1200円とされています。
⑷ 年金分割
1200円の印紙代が必要となります。
⑸ 慰謝料
慰謝料を求める場合には、慰謝料の金額と離婚自体の訴額(160万円)を比較して、多い方の訴額を納めるとされています。
例えば、200万円の慰謝料を請求する場合には、離婚自体の訴額に応じた印紙代1万3000円を納付する必要はありませんが、200万円の訴額に応じた1万5000円の納付は必要となります。

2-3 遺言無効確認訴訟の訴額

遺言無効確認訴訟の訴額については、遺言の内容に応じて、以下のとおりとされています。

⑴ 財産処分|例)遺贈を内容とする遺言の無効確認等
処分された財産の価額×原告の法定相続分

⑵ 相続分・遺産分割方法の指定|例)相続させる遺言(特定財産承継遺言)の無効確認等
(遺言により原告が取得する財産の価額+遺言により被告が取得する財産の価額)×原告の法定相続分÷(原告の法定相続分+被告の法定相続分)-遺言により原告が取得する財産の価額

⑶ 非財産権的内容
95万円

2-4 不貞慰謝料請求事件の訴額

不貞慰謝料請求事件の訴額は、請求する損害賠償の金額です

例えば、慰謝料300万円と弁護士費用30万円を請求する場合には、訴額は330万円となります。

2-5 不当解雇事件の訴額

不当解雇事件の訴額については、地位確認とバックペイに分けられます

雇用契約上の権利を有する地位の確認の訴額は、160万円です。算定不能であるためです。

バックペイの訴額、既に支払日が到来している金額に訴訟の平均審理期間である1年分を加えた金額となります(労働審判であれば3か月分を加えます)。

そのうえで、地位確認とバックペイのいずれか高い方の訴額を基準にすることになります。

雇用契約上の権利を有する地位の確認とバックペイは、いずれも解雇無効を原因とするものであり、主張する利益が共通しているためです(民事訴訟法9条1項但書)。

2-6 残業代請求事件の訴額

残業代請求事件の訴額については、未払い残業代として請求する金額です

付加金は、附帯請求となるため、訴額には含まれません(民事訴訟法9条2項)。

例えば、未払い残業代300万円と付加金280万円を請求する場合には、訴額は300万円となります。

2-7 債務不存在確認訴訟の訴額

債務不存在確認訴訟の訴額は、不存在と主張している給付請求権の価額です

給付請求権の額が明らかでない場合には、訴額不明として160万円とします。

債務不存在確認訴訟については、以下の記事で詳しく解説しています。

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3章 訴額と訴訟の印紙代の計算方法|早見表付き

訴訟の印紙代については、訴額に応じて決まります

早見表として整理すると以下のとおりとなります。

収入印紙代

例えば、訴額が300万円であれば、印紙代は2万円です。

訴額が大きくなるほど印紙代も高額になります

そのため、訴額を計算する際には、附帯請求ではないか、主張している利益が共通していないか、過大な請求となっていないかなどをよく確認しましょう。

4章 訴額が決まる際の具体的な流れと印紙の納付手順

訴額が決まるまでの流れを理解しておくと、訴状を提出する際に慌てずに済みます

正しい手順を知っておくことで、時間や手間をかけずにスムーズに手続きを進めることができます。

例えば、訴額の計算から印紙の納付までの流れとしては、以下の3つの手順があります。

手順1:訴額計算の上申書を作成する
手順2:訴状とともに上申書と収入印紙を提出する
手順3:裁判所から補正の連絡があれば追納する

訴額の計算から印紙の納付までの流れ

それでは、訴額が決まる流れと印紙納付の具体的な手順について順番に見ていきましょう。

4-1 手順1:訴額計算の上申書を作成する

まず、訴状を提出する前に「訴額計算の上申書」を作成します

上申書とは、訴訟物の価額をどのように算定したかを裁判所へ説明するための書面です。

なぜこれが必要かというと、裁判所は訴状に記載された訴額だけでは判断できない場合が多く、根拠や説明を求めることがあるためです

上申書を添付しておくことで、裁判所からの確認や補正を防ぎ、手続きをスムーズに進められます。

上申書を付けておくと、裁判所からも「ありがとうございます」とお礼を言われることもあります。

4-2 手順2:訴状とともに上申書と収入印紙を提出する

次に、訴状を提出する際には、上申書と一緒に収入印紙を納付します

郵送で送るのであれば、レターパックライトの中に収入印紙も併せて入れておきます(紛失を防ぐため書類送付書などに同封物を記載しておきましょう)。

裁判所に持参して申し立てるのであれば、収入印紙も一緒に持っていきます。

4-3 手順3:裁判所から補正の連絡があれば追納する

訴状を提出した後、裁判所から「印紙代が不足しています」などと補正を求められることがあります

この場合には、指示された金額分の印紙を追加で納付(追納)します。

補正とは、提出した書類に不備があるときに、それを修正・補完する手続きのことです

印紙不足があっても、追納すれば訴えは有効に受理されますので、慌てる必要はありません。

例えば、訴額の計算で誤差が生じたり、附帯請求を含めていたりするケースでは、補正が行われることがあります。

このようなときは、裁判所の案内に従い、速やかに印紙を追加して手続きを完了させましょう。

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5章 訴額についてよくある疑問5つ

訴額についてよくある疑問としては、以下の5つがあります。

Q1:訴額算定不能の訴訟物の価額は160万円?
Q2:訴額に遅延損害金は含まれる?
Q3:併合請求の場合の訴額は?
Q4:訴訟物の価額は誰が払う?
Q5:訴額通知とは?

それでは、訴額に関する5つの疑問点を順番に見ていきましょう。

5-1 Q1:訴額算定不能の訴訟物の価額は160万円?

A.訴額算定不能の場合の訴訟物の価額は、160万円とされています

民事訴訟費用等に関する法律第4条(訴訟の目的の価額等)
2 財産権上の請求でない請求に係る訴えについては、訴訟の目的の価額は、百六十万円とみなす。財産権上の請求に係る訴えで訴訟の目的の価額を算定することが極めて困難なものについても、同様とする。

5-2 Q2:訴額に遅延損害金は含まれる?

A.遅延損害金は、訴額には含まれません

なぜなら、遅延損害金は「附帯請求」にあたるためです(民事訴訟法9条2項)。

民事訴訟法第9条(併合請求の場合の価額の算定)
2 果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、訴訟の目的の価額に算入しない。

5-3 Q3:併合請求の場合の訴額は?

A.複数の請求を同時に行う併合請求の場合、訴額は基本的にそれぞれの請求を合計した金額になります(民事訴訟法9条1項本文)

ただし、各請求の利益が共通している場合には、合算しないことも認められています(民事訴訟法9条1項但書)。

民事訴訟法第9条(併合請求の場合の価額の算定)
1「一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。」

5-4 Q4:訴訟物の価額は誰が払う?

A.訴訟物の価額は、印紙代や管轄を決める際の基準となる金額であり、誰かが払うものではありません

被告が敗訴した際に支払うことになるのは、請求の趣旨に記載された内容に応じて裁判所が判決した金額です。

訴訟物の価額に応じて決まる収入印紙代は、第一次的には原告が負担することになりますが、勝訴した場合には被告に請求できる場合もあります。

5-5 Q5:訴額通知とは?

A.訴額通知とは、「訴訟物の価額の算定基準について」(昭和31年12月12日民事甲第412号高等裁判所長官、地方裁判所長あて民事局長通知)という通知のことです

いわゆる訴額通知と呼ばれており、訴額の算定基準として参考にされています。

「訴訟物の価額の算定基準について」(昭和31年12月12日民事甲第412号高等裁判所長官、地方裁判所長あて民事局長通知).pdf

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7章 まとめ

以上のとおり、今回は、訴額とは何かを説明したうえで、訴訟物の価額の計算方法や算定基準と印紙代を簡単に解説しました。

この記事の内容を簡単にまとめると以下のとおりです。

ホウペン

まとめ

・訴額とは、当該訴訟において原告が裁判所に判断を求める目的物の価額です。

・訴額の計算方法や算定基準を整理すると以下のとおりです。
類型別訴額の算定基準・計算方法⑶・訴訟の印紙代を早見表として整理すると以下のとおりとなります。
収入印紙代

・訴額の計算から印紙の納付までの流れとしては、以下の3つの手順があります。
手順1:訴額計算の上申書を作成する
手順2:訴状とともに上申書と収入印紙を提出する
手順3:裁判所から補正の連絡があれば追納する

この記事が訴額がどのようなものか知りたいと悩んでいる方の助けになれば幸いです。

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著者情報

籾山 善臣

籾山 善臣

リバティ・ベル法律事務所

神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題を数多く担当している。【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日

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